第33話 「海と水着と妹と」
ラトニアには娯楽施設としてのビーチがある。と言っても、海の家とベンチくらいしかない、低規模な浜辺だ。『はじまりの日』の前は、大勢の人々で溢れかえったらしいが、今は利用客は少ない。と言うか、俺たちだけの貸切状態だった。
「海だー!」
ビキニ姿のロマノが、海岸に向かって走り出した。海と浜の境界線を撫でる海水に、ぴちゃぴちゃと触っている。子供か。
「広いですねー。私、海って初めて見ました!」
同じくビキニ姿のユリーナが海の彼方を見渡している。
「わたしはパラソル立てときますね」
ワンピース水着のミミは、砂浜の真ん中にビーチパラソルを立てていた。その下に、皆の荷物も置いている。海パン姿の男子組三人は、ミミの手伝いをしていた。
「ってクロム! 何でクロミール持って来てんだよ!」
エリックが荷物の一部を指差して言った。俺の愛刀クロミールは、皆の鞄に堂々と紛れていた。
「この界隈には凶暴なサメがいるらしい。いざという時にはこれで斬る」
「クロム隊長は心配性ですねえ」
ファティオが微笑ましそうに俺を見た。そういうファティオの荷物の中にも、拳銃が入っている。ミミのポーチには毒薬だって入っているんだぞ。
「海水浴に武器なんていらねえだろ……。まあ、俺も新作スタンガン持って来てんだけどよ」
そう言って、エリックは棒状の機械を自慢気に持ち上げた。あれが新作スタンガンとやらか。
「リーチが長いから使いやすいぜ」
「そんなことより、クロム隊長も泳いで来たらどうですか?」
エリックの解説を無視して、カインズが顔を覗かせた。
「ボク、クロム隊長の泳ぐ姿を見てみたいです」
「俺だって見てえよ! 世界中の誰よりも見てえよ!」
「じゃあ、俺も楽しませてもらうとするか」
騒ぐエリックに背を向け、俺は透き通る海に飛び込んだ。冷たい海水が心地いい。俺は体の起伏が少ない上に、無駄な装飾の無いビキニを着ているため、スムーズに泳げた。いつも地上で生活しているから感じにくいが、三次元的な動きは楽しいな。前後左右上下、自由自在に動けるのは中々快感だ。水中だから可能な動きである。
俺は水上に頭を出し、「ぷはぁっ」と息継ぎをした。はじける水しぶきが日光を反射して、眩しかった。
パラソル設置が終わったミミも、水と戯れている。ユリーナと一緒に水のかけ合いを楽しんでいるようだ。
「…………いい」
エリックが砂浜に座りながら俺たち女子組を眺めていた。否、凝視していた。
「クロムは黒のビキニか。一切余計な装飾を付けず、水着としての機能のみを追及したデザインが、クロムの性格と見事にマッチしている。クロムの凹凸の無い体のラインが強調され、美しくなめらかな肢体が露になった。膨らみが皆無な胸は多くの男性がガッカリするだろう。だが、いい。それがいい。幼さをも感じさせる貧乳が愛らしくて素敵だ。それにしてもクロムの黒い長髪は魅力的だぜ。海水により、しっとりとした質感が追加された黒髪が、太陽の輝きを受けてより一層素敵になっている。そして何と言っても特筆すべきは尻だ。クロムの、子供みたいに小さくてぷりっとした可愛いお尻。遠くから見ただけなのに、ガッシリ手で掴んだように感じる。俺は今、クロムの肉体を目で触っているんだ。こんな光景、初めて拝んだぜ。目に焼き付けておこう。服の上からじゃ分からなかった、新たな魅力。さながら未開拓の地を発見したような新鮮な感覚だ。そう、女体はまだ見ぬ新天地であり、女体観察は男の冒険なのだよ。クロムの体はどこを見ても可愛いな。眼福極まりない。大好きだ」
エリックは続いてロマノの方に目を向けた。
「団長は水色ビキニか。予想以上に似合っている。年齢を感じさせない若さと、長年積み上げてきた女の魅力を兼ね備えているな。程よく肉感的で、実に女性らしい。街の男が10人中9人はナンパするレベルだ。美しい」
エリックは次にミミに目を向けた。
「ミミはピンクのワンピース水着か。年相応だな。体のラインは、ポテンシャルありだろう。今はまだ幼いが」
エリックは最後にユリーナに目を向けた。
「ユリーナは赤ビキニか。及第点」
体育座りをしながらブツブツ呟くエリックがとても不気味だ。
って言うか段々感想が短くなってないか。ユリーナのなんか一言だけじゃないか。
荷物番をエリックとファティオに任せ、カインズも泳ぎ始めた。無駄のない見事なフォームで、ものすごく速く泳いでいた。あいつなら、泳ぐ魚を追いかけながら素手で捕まえそうである。
ふと浜辺を見ると、見知らぬ少女が腰を低くして砂から何かを掬っていた。どうやらゴミ拾いをしているようだ。よく見たら、このビーチにはいくつかのゴミが散らばっていた。心無い利用者の、不法投棄だろう。うむ、アイズとしては、この事態を看過出来ない。俺は少女と共にゴミ拾いをしようと考え、海から上がった。
少女は14歳くらいの見た目で、黄色の長髪が綺麗な美人だった。将来はもっと美女になるに違いない。しかも、俺と違って、その少女の胸は大きかった。これは男好きのする女性に育つだろう。少女の服装は、白を基調とした制服だった。どこかで見た覚えがある。水着姿ではないので、泳ぎに来た訳ではないだろう。
少女は何やら辺りをキョロキョロしていた。鼻をひくひくさせながら、「うーん、この辺だと思うんですが……。いませんね」と呟いている。
誰かを探しているのか。そう思った時、カインズが海から地上に上がった。
「ふうー。思う存分泳ぎました!」
カインズが顔の水気を手で拭う。その様子を見た少女は、目を見開いて叫んだ。
「兄上!?」
言った瞬間、少女はカインズに向かって素早くダッシュし、そして高くジャンプした。飛距離約10メートルの幅跳びを披露した少女は、その勢いのままカインズにぶつかり、抱きついた。
カインズは少女の慣性を受けて、後ろに倒れた。柔らかい砂が、優しくカインズを受け止める。
「カインズ兄上! ご無事だったのですね! レイティアは……レイティアは心配しました!」
少女は涙声になりながらカインズの胸に顔を擦り寄せた。少女の豊かな胸が、カインズの腹部に当たって揺れた。まるでユリーナのようなスキンシップである。
カインズはその様子を、少し驚きながら見ていた。
「レイティア……!? しばらく見ないうちに大きくなったね」
「カインズ。その女の子は……」
誰だ、と聞こうと思ったが、聞くまでもなく文脈から読み取れた。
カインズは丁寧に、少女の紹介した。
「彼女はレイティア・ハルバート。ボクの妹です」




