第32話 「他愛ない宴」
パーティー当日。
アジトのダイニングルームには様々な料理が並べられていた。鶏肉の香草焼きや、魚と野菜のスープや、キノコご飯や、豚肉の揚げ物など、バリエーション豊かなご馳走が盛りだくさんだ。
「皆、思う存分食べてねー」
ロマノがエプロン姿で食事を振る舞った。
皆は食事を楽しみながらお喋りに没頭していた。
ユリーナが執拗に俺に酒を勧めてくる。
「クロムさん、どんどん飲んじゃいましょうよ!」
この国では飲酒可能年齢は16歳からなので、俺は問題なく酒を飲める。ミミはまだ15歳だから、今日はお茶とジュースで我慢だ。ミミ以外のメンバーは、既に何杯か飲んでいた。
「クロムさぁん。そろそろ酔っ払ってきましたぁ?」
そう言うユリーナの口調が酔っていた。顔もほんのり赤い。パーティーは始まったばかりだと言うのに、調子に乗って飲み過ぎるからだ。
生憎だが俺は酒に強いんだ。派手に酔っ払ったことは一度も無いし、二日酔いに悩まされた日も無い。
「早くクロムさんを酔っ払わせて……ベッドに連れ込んで……ムフフゥ……」
ユリーナは心の内にある欲望を口から漏らしていた。
「クロムさん……褒めて下さぁい。私、頑張りましたぁ……」
ユリーナは俺の胸元に頭を擦り寄せてきた。俺はユリーナの頭をぽんぽんと軽く叩く。
「はいはい。頑張ったな」
初任務での活躍を褒めてやってからというもの、ユリーナは度々褒め言葉を要求してきた。甘えぎみになった気がする。
「ユリーナだけずるいぜ。俺も頑張ったのによ」
エリックが、羨ましそうに俺とユリーナを見つめていた。
「じゃあエリック。お前も頑張っ……」
「いや、罵って欲しい。役立たずのクズだと罵倒してくれ!」
「……………………」
折角褒めてやろうと思ったら、エリックが変態的な要求をしてきた。そういや、コイツはマゾヒストだったな。一応活躍した仲間を貶すつもりは無いので、エリックの要求は無視した。俺はファティオの方を向いて話した。
「そういや、ファティオの怪我はどうなった?」
「大丈夫ですよ。ご心配には値しません」
「あれ? 無視? 俺、無視された? 放置プレイ?」
俺は横から話しかけるエリックに目も向けず、ファティオと会話を続けた。
「ミミを守ったんだってな。流石ファティオだ」
「いえ、女の子を助けるのは男として当然のことですよ」
ファティオは笑顔で答えた。紳士だ。うちの副隊長はジェントルマンだ。
俺に無視されたエリックは、何故か恍惚な表情を浮かべていた。
「学会襲撃の時の援護射撃も助かったぞ」
あの時ファティオがトーマスを撃っていなかったら、キューの命は無かったかもしれない。
「隊長の助けになれたのなら、誉れです。それにしても、今回の任務はインパクトの強い事件でしたね。おかげでいいストーリーが書けそうです」
「また小説を書くのか?」
「当然です。僕は作家ですから」
ファティオは楽しそうに語った。
「皆さんちゅうもーく! 今からちょっとした余興をお見せしましょう!」
カインズが、皆から見える位置に立っていた。カインズは酔っ払ったように見えるが、アイツも結構酒に強い。まだ素面だろう。場を盛り上げるために粋な計らいをしてくれたのだ。
ラトニアのサーカス団で働くカインズのショーを見れるのか。楽しみだ。
カインズはポケットから、一セットの『チェルダートカード』の束を取り出した。『チェルダートカード』は、1から6の数字が一つだけ書かれたカードだ。それぞれの数字カードは、赤、青、黄色、緑、黒、白の6色のどれかのインクで書かれており、チェルダートカードは一セットで合計36枚。全部違う数字と色のカードだ。娯楽に飢える国民のために、チェルダート王国政府が発明したカードゲームである。これ一つで、様々なゲームが楽しめるのだ。
カインズはチェルダートカードをロマノに渡し、中身を確認させた。
「ではロマノ団長。ボクに見せないようにしてカードを一枚選んで下さい」
「いいよー」
ロマノは『赤の5』のカードを選んだ。カインズはロマノに背を向けている。
「選びましたか? ではそれを皆に見せて下さい」
「はーい」
ロマノはカインズ以外の全員に『赤の5』を見せた。
「ではそれをカードの束に戻して、テーブルに置いて下さい」
ロマノは選んだカードを戻した。『赤の5』は他のカードに紛れて区別が付かない。ロマノがカード束をテーブルに置くと、カインズが振り返ってカード束を手に取った。
「これを、シャッフルします」
カインズは目にも止まらぬスピードでカードをシャッフルした。これでは『赤の5』がどこにあるか分からない。
「皆さん、ロマノ団長が選んだカードがどこにあるか分かりますか?」
カインズが全員を見渡して聞くが、首を縱に振る者はいなかった。
「ならボクが当てて見せましょう」
カインズは迷うことなく、カード束の真ん中辺りを指差した。
「ここです」
カインズが選んだカードをひっくり返す。『赤の5』だった。
「ええええええ! 何で!」
ロマノが目を見開いて驚いている。
「秘密、です」
カインズは少し意地悪なスマイルを送った。
まあ、カインズはシャッフル中、終始カードを目で追っていたから、きっとカインズの視力や動体視力を生かしたトリックなのだろう。
ネタばらしは、してくれなさそうだ。無闇に手品のネタを話して仕事に支障を来してもいけないからな。
パーティーの盛り上がりは収まることを知らず、そのまま3時間以上騒いだ。ロマノは2杯しか酒を飲んでいないが、我を失ったようにはしゃいでいた。若くて元気な三十路である。
ミミとユリーナは仲良さげに話していた。ミミは会って間もない人とは打ち解けにくいのだが、ユリーナと仲良くなれたようで良かった。二人の間に、何かいいことがあったのかもしれない。
そして酔いが覚めないまま、パーティーはお開きとなった。
ロマノは皆の前で大声で宣言した。
「今度は海に行きたいでーす」
この女、まだ遊ぶ気か。俺は真面目に反対した。
「そろそろ本部に戻れよ。仕事、忘れてないよな」
「えー。だって自分は息抜きのためにラトニアに来たんですよー。もっと遊びたいでーす」
重要な任務の説明に来たんじゃなかったのか。アジト来訪の本旨はバカンスか。
「ラトニアにも海はありましたよね。行きましょうか」
ファティオがロマノの案に賛同した。きっとロマノに気を使ったのだろう。
確かにラトニアには海がある。おかげで豊富な海の幸に恵まれ、海水浴も楽しめる。来客は少ないが、ビーチだってあるのだ。
ファティオに続くように、他のメンバーも海に行くことに賛同した。
「……仕方ない」
こうして、明日、海に行くことになった。




