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絶え損ないの人類共  作者: くまけん
第二章 ルタ大陸編
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第177話 「観察する老科学者と、竜の胃を持つ少女」

 マジマジから発せられた言葉は意外なものだった。

「戦う気は無いのか」

「その通りだ、クロム。貴様らも無駄な争いはしたくないだろう。アイズは儂達の敵だが、今回だけは平和的にいこうではないか」

 無駄な争いをしたくないのは確かだが、奴は一体どういう目的で戦いを止めようとしているのか。


「そうねぇ。戦わないで済むなら、それに越したことは……」

「待て、アレイシア」

 マジマジの申し出を受けようとするアレイシアを、俺は止めた。俺も戦闘を避けるのには賛成だが、あえて敵の提案を断り、揺さぶりをかけてみよう。奴の真意が読み取れるかもしれない。

「俺は剣を収める気は無い。その少女から情報を聞きださないといけないからな。拷問でもなんでもして、洗いざらい吐いてもらう」

 少々脅しをかけるように言うと、ナナは怖がってマジマジの後ろに隠れてしまった。

「ほう、驚いたな。貴様がそんな非情な人間だったとは」

 『驚いた』という割には、マジマジの表情は冷静そのものだった。俺の言葉を正直に受け取ったようには思えない。俺の本心に気付いているのか?

 奴は『観察者』という異名を名乗っていた。マジマジが観察が得意だとしたら、俺の心を読んでいてもおかしくない。

 観察で相手の心理を察する……俺と似たタイプの人間か。

「だが一つ伝えておこう。ナナに質問しても意味はない。この娘は『執念の手』のことをほとんど知らぬし、拷問なんぞにかけようものなら、精神が壊れてまともな返答ができないだろう。何か尋ねるなら、代わりに儂が答えてやってもいいぞ。儂が答えられる範囲でならな」

 またもや、意外な回答。自分から情報を吐いてくれるとは。

「本気なのか?」

「無論だ。ナナに危害が加わるくらいなら、多少の情報を提供するくらい構わん。質問に答えてやるから、ナナを見逃せ。それが条件だ」

 随分とナナに優しいんだな。孫を甘やかすおじいちゃんみたいだ。


 マジマジはポケットから棒状の機械を取り出し、空に向かって手を伸ばした。そしてマジマジが機械のスイッチを押すと、ビービーとやかましい音が鳴る。

「これはオリジンピースの活動を止めさせるための機械だ。この音を聞いたオリジンピースは、現在実行中の命令を忘れ、その場で大人しくなる」

 マジマジの言う通り、残る7体のオリジンピースは、音を聞いた途端に動きを止めた。

「これで儂の言うことを信じる気になったか?」

 実際に戦いをやめたのだから、俺達を油断させるための策とは考えにくいな。奴らから殺意や戦意は感じられない。本当に、ナナを連れ戻すためにここに来たのだろう。


「じゃあ聞くが、お前ら『執念の手』は何が目的なんだ?」

「センから聞いてないのか? 儂らは人類を殺すためだけに行動する。人を絶滅させることが『執念の手』の最終目的だ」

「二つ目の質問だ。ナナは腹からドラゴンを吐き出していたが、ただの人間がそんな芸当をできるとは思えない。あれは一体どういう仕組みだ?」

「ナナは肉体改造されている。具体的に言うと、自分の胃袋をドラゴンの胃袋と取り替えられたのだ。だから、1メートル近い大きさのドラゴンを何匹も胃袋に潜め、吐き出すことができる」

「なんだと……!?」

 ドラゴンの胃を移植された……? あの幼い少女の体が、改造されただと……?

 非道で悪趣味な話だ。その残酷性は想像を絶する。

「センの右足がドラゴンの足なのは、貴様も知っているだろう。あれと似たようなものだ。ナナの胃袋は、『ハンガードルガ』という暴食の竜の胃袋だ。あらゆる食べ物を消化する、極めて頑丈な胃袋。そこに『特殊生体圧縮化加工』を施されたオリジンピース10体を押し込み、いつでも腹から出せるようにしたのだ」

 センの右足は、ファストグシーガとかいうドラゴンの足だった。それと同じように、ナナの体内にもドラゴンの体が使われているのか。

 それにしても、なんか聞きなれない難しい単語を耳にしたな。

「その、『特殊生体なんとか』ってなんだ?」

「『特殊生体圧縮化加工』だ。詳しく解説すると1時間くらい必要となるが、聞きたいか?」

「いや、いい」

 流石に1時間もマジマジの話を聞く気はない。

「まぁ、簡単に言うと、生き物を生かしたまま小さくする技術だ。まだ人間には使えないが、ドラゴンなら生きた状態で小型化できる。そうして小さく加工したオリジンピースをナナの胃の中に入れ、ナナが敵と戦う時にだけ元の大きさに戻して吐き出すのだ」

 さらっと言ってのけているが、随分と高度な技術だな。科学はそこまで進歩しているのか。

 ナナのお腹の中にいるドラゴンが巨大化した時に、ナナの腹が膨らみ、ドラゴンが小さくなった時に、ナナの腹は収縮したのだろう。とても痛そうな戦い方だし、実際ナナが吐く時はかなり辛そうだった。

 武器が持ち込めない場所に赴く時などに、応用できそうな技術だ。倫理観の欠片も無いが。

「ドラゴンの能力を知った科学者達は、ドラゴンの力を人間に移植する技術を考案した。センやナナは、その被験者だ。そして、ドラゴンの肉体を移植し、ドラゴンの力を手にした者の通称は……」

「『竜人』、ですね」

 マジマジの台詞の途中で、少女の冷淡な声が割り込んだ。

 彼女は白衣を纏って、俺達の前に姿を現した。

「初めまして、マジマジさん。そして、お久しぶりです、アイズの皆さん。ワタシはオーディンの妻、シエルと申します」

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