第176話 「9体のドラゴン」
1体だけでも脅威になるドラゴンが、9体も。
ナナはこんなに多くのドラゴンを腹に潜めていたのか。一体全体、ナナの腹はどんな仕組みをしているんだ。
「またドラゴンですか。チェルド大陸で見て以来ですね」
ファティオは9匹のオリジンピースを興味深そうに見ていた。チェルダード王国のルクトシン第一バイオ研究所では、子供のブラッドドラゴンと戦闘をしたことがある。オリジンピース達と子供のブラッドドラゴンは同じくらいの大きさで、戦闘能力もほぼ等しいと言えた。
ドラゴンの実力は、この場の全員が理解している。
「来るわよ。みんな気を付けて」
アレイシアが警告した次の瞬間、オリジンピース達が俺達に襲い掛かった。一対一ならともかく、多数で攻められると対処が難しい。
「ウゼエんだよっ、トカゲ共!」
サジェッタが思いっきり鞭を振って、オリジンピースを薙ぎ払った。地面に叩きつけられたオリジンピース達だが、またすぐに体勢を立て直す。タフな奴らだ。
そこにカインズが飛び出し、二匹のオリジンピースを同時に蹴った。激しく吹っ飛ばされたオリジンピース達。それでもまだ動き出した。やはり弱点を突かなければ、簡単には殺せないようだ。
「よぉ、カインズ。久しぶりだなぁ」
サジェッタがカインズを睨んで言うと。カインズはサジェッタの方を向いた。
「えっと……『イーヴィル・パーティー』のサジェッタ……だったっけ? うん、久しぶりだね」
カインズはサジェッタと戦ったことがあるようだが、それはしばらく前のことだった。カインズがサジェッタの名前をうろ覚えなのも、仕方ないだろう。
「呼び捨てしてんじゃねーよ。あん時よりは強くなったみてーだな、クソ貴族さんよぉ」
「うん。おかげさまで」
カインズは喋りながら、もう一匹のオリジンピースにかかと落としを決めた。それが偶然にも翼の付け根に直撃したため、オリジンピースは唸り声をあげて息絶えた。
「あ、ここが弱点みたいだね」
カインズが言うと、アレイシアが両手の手のひらを合わせて謝った。
「ごめんねぇ。それ伝えるの忘れてたわぁ。オリジンピースは背中の羽の付け根が弱点なのよ」
「おいおい。それ、早く教えて欲しかったぜ……」
エリックが左手を抑えながら呟いた。アレイシアの情報があれば、エリックは楽にオリジンピース達と戦えていたかもしれない。そうすれば、怪我をせずに済んだかも。
「だからごめんってば」
アレイシアはエリックに謝罪を重ねながら、オリジンピースをもう一匹仕留めた。喋っていても戦闘に集中し続けている。流石アレイシアだ。
「うーん、驚いたね。まさか伝説の生き物をこの目で見れるとは! 貴重な経験ができてよかったよ……おおっと、危ない!」
ウォレットが喜びを語っている最中に、ウォレットの顔面目掛けてオリジンピースが襲ってきた。しかしウォレットは素早く躱し、敵を距離を取った。『戦闘の心得がある』というのは嘘じゃないようだ。
「この僕様を簡単に殺せると思わないことだ。そして……」
ウォレットは、温泉の外にいるナナに向かって走った。
「君は隙だらけだね!」
オリジンピースに戦闘を任せっきりのナナは、俺の目から見ても隙が大きかった。そこを見逃さず、ウォレットは敵の指揮官であるナナに接近する。
「ふえええええっ!」
ナナは慌てふためいて尻餅をついた。
ウォレットがナナの目の前まで来た時、新たな殺気が姿を現す。
ウォレットの足元に投げられる注射器。ウォレットはそれを感知し、すぐさま注射針を回避した。その勢いでウォレットは地面に転倒したが、咄嗟に受身を取って衝撃を和らげた。そしてコロコロと転がって、ナナから離れた位置で体勢を整えた。
「またもや僕様を襲う危機! だが僕様は回避できてしまうのだよ! フハハハハハハ!」
いつも通りの手前味噌な台詞を吐いて、ウォレットは立ち上がった。俺とウォレットは、注射器が飛んできた方向に視線を向けた。
ナナの後ろから、白衣姿の男が歩いてくるのが見えた。彼は知性を感じさせる老人で、威圧的な目つきをしていた。両手には注射器を持っている。いずれも、毒々しい色の液体が入っていた。
「その娘に乱暴な真似をするのは控えてもらおうかね、ウォレット・ミカウツ」
この男とは面識がある。こいつはルクトシンの研究所で所長を務めていた男で、『執念の手』のメンバー。
マジマジ・オブズアブだ。
「君も『執念の手』の一員なのかね、ご老人?」
ウォレットの問いにマジマジが答える。
「そうだ。儂は『執念の手』の『観察者』、マジマジ・アブズアブ。今はドラゴンの研究をしている」
俺はマジマジを睨んで言った。
「カインズから聞いたぞ。高名な科学者が、殺人集団の仲間とはな。お前もナナと同じく、俺を殺しに来たのか?」
「いや、今の儂に戦意は無い。この娘を連れ戻しに来ただけだ」
マジマジは両手を前に出して言った。
「武器を収め、戦いを中断してはくれんかね」




