第174話 「少女は苦しみながら竜を吐く」
俺は30秒で着替えを終えて、エリックがいる温泉に戻ってきた。
「クロム、戻ったか! 早いな!」
俺に気付いて、エリックが言った。エリックの近くには、動きの鈍った三匹のオリジンピース達がいた。エリックがスタンガンでダメージを与えてくれたのだろう。
しかし、少なからず代償は払ったようだ。エリックの左肩から手首にかけて、血が滴っている。ドラゴンに噛まれたのか。
「エリック、大丈夫か!」
「平気だぜ。この程度ならな」
エリックはそう言ったが、結構な量の出血だ。早く治療しないと命に関わる。
「お前はミミと合流して、治療してもらえ。後は俺がやる」
今の俺には『クロミール』がある。『クロミール』なら、ドラゴンの硬い皮膚も斬れるはずだ。
「じゃあ、お言葉に甘えるぜ……」
エリックは左腕を抑えながら、温泉から離れていった。元気そうに取り繕っていたが、やはり傷が痛かったようだ。
ありがとうエリック。お前のおかげで、戦況は変わった。
「でんきビリビリのひとはおかえりですか? クロムさん、あたちのドラゴンちゃんは、けんなんかじゃきれませんよ?」
ナナは余裕そうに言っていた。
「どうだかな」
俺はオリジンピースとの距離を詰め、『クロミール』で斬りかかった。オリジンピースは弱点を守るため、翼で背中をガードしたが、俺の狙いはそこじゃない。
『クロミール』の刃が、オリジンピースの肩を斬った。オリジンピースの左腕が切り落とされ、ボトリと音を立てて落ちる。斬られた腕から、緑色の血液が止めどなく溢れてきた。
「ギャウオオオオオ!?」
自慢の皮膚が切断されるとは思っていなかったのだろう。オリジンピースは悲鳴をあげて暴れまわった。温泉の床が緑色に染まっていく。
俺の『クロミール』は、切れ味が良い。センの『セナージ』程ではないが、硬い物でも斬れる威力を持っている。
「うそっ! きれちゃった!」
ナナは驚いて俺を見つめる。『クロミール』の性能は予想外だったか。
「でもでも! ドラゴンちゃんのちがべっとりついたら、きれあじはわるくなりますよ!」
「生憎だが、それはない」
『クロミール』の能力。それは、『刀身に付着した血液を完全に弾く能力』。固体だろうが液体だろうが、『クロミール』に付いた血は全て弾かれる。
斬った時は緑色の血液が付いていた『クロミール』だが、1秒後には血液は全部床に落ちて、刀身はまるで新品の刀のように綺麗になっていた。
「あわわわ! きれいになってる! なんで?」
「これが俺の武器、『純潔の一振 クロミール』の能力だ。他者の血で汚されることはない」
俺が『クロミール』の説明をしているうちに、二匹のオリジンピースが電撃のダメージから復活し、俺が斬った個体は血が止まっていた。この驚異的な回復力は、流石ドラゴンと言うべきか。
長引いたら不利になりそうだし、早く仕留めてしまうか。
「お待たせクロム」
「おいクロム! アタイの獲物は残してあるだろうな」
アレイシアとサジェッタも服を着て、温泉に戻ってきた。
増援は彼女達だけじゃない。
「大丈夫ですか、クロムさん!」
ユリーナとミミが、カインズとファティオとウォレットを連れて、ここに戻ってきた。よく見ると、エリックもいる。エリックの左腕は包帯で応急処置がされてあった。
「ああ。傷一つない」
ユリーナとミミは布を巻いて体を隠していた。男子部屋に行く時に、服の代わりとして着たのだろう。
クロム隊が全員ここに集い、戦力は大幅に増した。
「そんな……てきがいっぱい……。これじゃあ、まけちゃうよ……。ころせないよぉ……」
ナナは涙目になりながら、俺達を見ていた。
「いや……。そんなのいや……。いやなのおおおおおおおおおお!」
ナナが激昂したかと思うと、またもやナナの腹が膨らんだ。膨らみが腹から喉に移り、口から這い出てくる。どんどん吐き出されていく。
1体、2体、3体……。留まることなく、ドラゴンがナナから現れる。
「おい! やめろ!」
吐き出す度に、ナナは苦しそうだった。おそらく、あの嘔吐は相当な痛みと苦しみを伴うのだろう。体への負担も大きいはずだ。
幼い少女が、そんなことをしているのは見ていられなかった。
俺の声を無視して、ナナはドラゴンを吐き続ける。6体目のオリジンピースをひねり出したところで、ナナの嘔吐は止まった。
「えへへ……これであたちのドラゴンちゃんはぜんぶ……。もうあたちはまけないもん……」
ナナは焦点の定まらない目で、空を仰いでいた。液体まみれの体が、ガクガク震えている。息が激しく乱れていて、とても苦しそうだった。
痛々しい声で、ナナはドラゴン達に命令を下した。
「ころして。はやくあのひとたちをころしてよおおおおおおおおおおおおおお!」
殺意の少女より出でし竜が、一斉に牙を剥いた。
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