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絶え損ないの人類共  作者: くまけん
第二章 ルタ大陸編
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第171話 「視線の正体」

 サジェッタと同じく、俺も視線を感じていた。エリックから発せられる邪な視線とは違い、殺意に覆われた視線。

「隠れてるつもりか? 甘ぇんだよ!」

 サジェッタは湯船から出て、脱衣所へと走った。そしてサジェッタの衣服が入れられたカゴに近付き、鞭を手に取る。今日の朝にサジェッタが使っていたものと同じ鞭だ。

「くたばれ!」

 サジェッタは鞭を振るい、温泉の壁に穴を開けた。ズガッと大きな破壊音が鳴る。

 壁にヒビが入って壊れそうになったが、サジェッタはさらに鞭の一撃を加え続けた。何回か壁にダメージが入ったところで、壁が崩れて温泉の外が見えるようになった。


「あわわわ……みつかっちゃったです……」

 壁の外にいたのは、あどけない少女だった。黒色のツインテールをぶら下げた、小さな女の子。6歳くらいに見える。

 サジェッタの例があるから、本当に子供なのかは分からないが。

 彼女は尻餅をついて、サジェッタを見上げていた。

「いきなりおふろをこわすなんてびっくりです! こーきょーぶつをこわしたらだめって、ママにおしえてもらわなかったんですか?」

 『公共物』が上手く発音出来てない。舌足らずな口調だった。

 彼女はサジェッタを指差して、説教じみた様子で言った。

「わるいこには、ナナがおしおきしちゃいますよ!」

 『ナナ』というのは彼女の名前だろうか。

 しかし、なんでこんな少女がここに。俺達の入浴を覗いていたのか? エリックならともかく、少女に覗かれる理由が分からない。

「あぁん? なんだこのクソガキ。お仕置きだぁ? 人の風呂覗いてたテメェこそお仕置きが必要じゃねぇのかよ」

 サジェッタはあからさまに不機嫌な様子で、ナナを睨んだ。

「のぞいてたんじゃないです! ころしやすいたいみんぐをまってたんです!」

 少女の口からは、不釣り合いな言葉が飛び出た。

 『殺しやすいタイミング』だと?

 俺のナナに対する警戒心が急激に高まる。

「クロムさんってどこですか? あたちとおなじくらいのおっぱいのおおきさだってききました。あ、もしかしてあなたがクロムさん?」

 ナナはサジェッタの胸板を指差して言った。人を探す手がかりが胸の大きさでいいのか、というツッコミはこの際置いておこう。

 確かに俺とサジェッタの胸のサイズは同じくらいだが、(サジェッタの方がやや大きいが)クロムは俺だ。

「ケッ、違ぇよ。クロムはあいつだ」

 サジェッタは俺に鞭を向けた。

 ナナはクロムが俺だと気付くと、満面の笑みを浮かべて自己紹介した。

「そっちでしたか! あたちのなまえはナナ・ティーパ! 『しゅうねんのて』のメンバーです! なかまからは『じゅんすいおだく』っていういみょうでよばれてます!」

「『執念の手』だと……?」

 人殺しのためだけに行動する、狂人達の組織、『執念の手』。俺の幼馴染のセンも『執念の手』のメンバーで、中央都市の大量虐殺を行った。

 その組織に、こんな幼い少女もいるというのか。中央都市の一件では、スーニャと名乗る『執念の手』の少女もいた。だが、彼女は12歳くらいの見た目だった。ナナは、スーニャよりもっと幼く見える。この娘も、殺人に手を染めているのか。

 それは恐ろしく、残酷な真実だった。

 ナナは自分の異名を名乗っていた。スーニャも『爆発少女』と名乗っていたし、『執念の手』にはメンバーに異名を付ける決まりがあるのだろう。となると、ナナの異名は。

 『じゅんすいおだく』……『純粋汚濁』?

 綺麗なのか汚いのかよく分からない異名だ。


「ねえねえクロムさん、おねがいがあるんです! あたちにころされてください!」

 笑顔を崩さないまま、そんなお願いをするナナ。当然、承諾してやるはずはない。

「断る。お前に殺されてやる気は無い」

「えー、ざんねんです。でもでも、むりやりころしちゃいます!」

 ナナは息を大きく吸った。何か来る。

「アレイシア! 戦闘態勢に移れ! ユリーナとミミは避難して、カインズ達をここに呼んでこい!」

 俺が指示すると、三人は浴槽から上がって立ち上がった。

 ナナ以外の全員が全裸という状況だが、アレイシアと俺は素手でも十分戦えるので問題無い。だがユリーナとミミは違う。二人には安全を確保してもらい、仲間を呼んでもらおう。

 いくら相手が子供だからといって、『執念の手』だというなら容赦はしない。ここでナナを倒し、色々と情報を吐いてもらうぞ。


 ナナは息を吸った後、目を閉じて唸り声をあげた。なんだか、痛みに耐えて踏ん張っているように見える。

 すると、予想外のことが起きた。

 ナナのお腹が急に膨らみ、さながら妊婦のようになっていったのだ。冗談みたいな光景だ。だが、今の時代には、幼い女の子を襲って妊娠させる事件も結構な数発生しているので、あまり笑えない冗談だ。

「はぁ……はぁ……」

 ナナは喘ぐような声をあげて、顔を紅潮させていく。

 かと思えば、地面を向いて口を大きく開けた。

 そして。

「おえええええええええええ!」

 盛大に嘔吐し、汚い液体と固体の混合物を地面にぶちまける。その吐瀉物の中にある固体は、かつて見た生き物に似ていた。

 牙と爪、そして翼と鱗を持つ生物。絶滅したはずの古代の生き物。だが彼らは現代科学の力で復活した。その姿は、俺もチェルド大陸でしっかり目の当たりにしていた。

 伝説上の生き物、ドラゴン。

「……さぁ、あたちのドラゴンちゃん。あのひとたちをぶっころして」

 息を乱しながら、口から嘔吐物を垂らすナナ。

 彼女の命令に従うように、ゲロから生まれたドラゴンは動き出した。

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