第168話 「フロントにいたのは」
「なっ……」
思わず言葉を失っていた。短い間に、二度もこいつと遭遇するとは。いやそれより、なんでイーヴィル・パーティーの面々が影宿にいるんだ。こいつら、宿屋経営もしているのか? それとも、また悪事を企んでいるのか。
「先に言っておくが、我が輩達はこの宿の職員ではないぞ。宿の主人がどこかに行ってしまったのでな、我が輩達が代わりに宿番をしているのだ」
俺の心を読み取ったように、オーディンが状況を説明してくれた。代わりに宿番? オーディンとサジェッタが?
「でも結局アタイが宿番してんじゃねーか。さっきまでどこ行ってたんだよ、ボス」
サジェッタが不満そうにオーディンを睨む。
「今晩の宿代を確保しに行ったのだ」
オーディンは小さな袋を取り出した。金属音がしたから、中身は硬貨だろうか。オーディンの言う『宿代の確保』が真っ当なものであるはずがない。大方、他の宿泊客から盗んだのだろう。
「要するに泥棒だな」
サジェッタのあっさりした口調から察するに、オーディンの泥棒行為は日常的なことなんだろう。絵に描いたような悪党だな。
「しかし、主人はどこに行ったのであろうな」
「宿泊客の若い女と一緒に、暗い森に入っていったのを見たぜ。今頃二人でよろしくやってんだろ」
オーディンの疑問に、サジェッタが答えた。少女が「若い女」とか言っているのには違和感があるな。大人びた口調を喋りたがっているのか。
「『若い女』って……。お前の方が若いだろ」
俺がサジェッタを見下ろして言うと、サジェッタは「あぁん?」と言いながら俺を睨みつけた。
「テメェ、カインズの野郎に聞いてないのか? アタイはこう見えても大人だ。今年で32歳になる。テメェなんかより年上だぞ、クソガキ」
「はぁ!?」
そんな馬鹿な。サジェッタの身長は俺より小さく、顔つきも幼い少女にしか見えない。どこに三十代の要素があるのか。この女が、32歳だと?
というか、『カインズに聞いてないのか』って……あぁそうか。カインズが前に戦ったイーヴィル・パーティーの女は、サジェッタだったのか。ということは、サジェッタはカインズに傷を付けるほどの実力者だということになる。
人は見かけによらないと言うが、本当だな。まぁ、見かけの性別と実際の性別が違う俺が言えたことではないが。
「サジェッタ・ナリエシルだ。覚えておきな、クロム」
サジェッタは俺と目を合わせようとしないまま。自分の名を名乗った。
「主人の代わりに宿番とは、意外だな。お前らが人助けをするなんて」
悪党の集まりが他人のお手伝いなんて、おかしな話である。
「影宿は頻繁に利用しているからな。悪人に協力的な宿は、我が輩達にとって利用価値が高いのだ」
オーディンは俺の質問に返答した。
イーヴィル・パーティーが頻繁に宿泊する宿……不安だな。
だが逆に言えば、客の情報を簡単に口外しないことの証明にもなる。ある意味、安心して泊まれる宿だ。
「我が輩達も今晩はここで一夜を過ごす。貴様らも泊まるのであれば、せいぜい周囲を警戒して寝ることだな」
オーディンは不気味に笑って言った。
「言われなくても、俺は警戒せずに寝ることはない」
「そうか。いらぬ忠告だったな」
オーディンはテーブルの上にあるノートを手に取り、空白のページを開いた。
「チェックインするのであろう? 我が輩が記録してやるから、宿泊人数を言え」
今夜は、よりいっそう眠りが浅くなりそうだ。




