第164話 「悪しき参入者」
敵のアジトを抜け、深い森に入ろうとした時、複数の声が俺を留めた。
「待ちやがれ!」
「逃がさねーぞ!」
「お前らは完全に包囲されている!」
それはただのハッタリではなく、実際に俺たちは囲まれているようだった。武装した男達が、俺とファティオの周りに立ち塞がる。その中には、先程の泥棒もいた。
「戦闘は避けられないか。ファティオ、銃は持っているか」
「いえ、僕の武器はラトニアの家に置いてきたんですよ。でも今は、あそこの物置から頂戴した拳銃があります」
ファティオは小型の拳銃を取り出して、俺に見せた。
「よし、ここを突破するぞ」
「了解です」
俺は『クロミール』を、刃の部分が上になるように持ち、構えた。こいつらを殺す必要は無い。峰打ちで十分だ。
俺は森の方角に走りながら、迎え撃つ敵に斬撃を放った。狙うは手。もしくは足。攻撃手段か移動手段のどちらかを失えば、敵は無力化できる。
クロミールの峰が当たる度、鈍い音がして悪人達が倒れていく。
ファティオは、威嚇射撃をしながら前方へ進んだ。わざと狙いを外して撃っているのだが、悪人達は驚いて動きがすくんだ。
このまま突破できると思った時、口笛の音が森に鳴り響いた。音のした方向、背後を振り返ると、さっきのボスが高らかに笑っていた。
「がはははは! 口笛で犬を呼んだ! 俺が飼い馴らしている獰猛な犬だ! 20匹くらいいるぞ! この森で放し飼いにしてある! もうお前らは逃げられん! このまま犬の餌になりたくなかったら、俺に従うんだな!」
ボスは自信満々に俺達を見た。
「復活早いな」
スタンガンを受けて間もないのに、タフな奴だ。
「犬、か……」
一匹なら勝てる自信はあるが、20匹もいたら多勢に無勢。ちょっと厳しいかもな。犬はそこそこ強いし。
その時、近くの草むらがガサガサと音を立てた。
「ふっ、犬が来たようだな! お前らに勝ち目はないぞ! 諦めろ!」
獲物を狙う恐ろしい目。肉を食いちぎる鋭い牙。震えあがるような叫び声。血と殺意の匂い……。
そんなものは一切無かった。辺りには沈黙のみが存在していた。
「あれ……?」
ボスはもう一度口笛を吹いた。だが、犬は来ない。何度も何度も吹いたが、やはり来ない。
「な、何故だ! 何故犬が来ない!」
すると、草むらから一人の男が登場した。
「貴様が言う『犬』とは、この死骸のことか?」
彼は血まみれの犬の死体を左手で掴み、悪党のボスの方に投げた。
「ペットの教育がなってないぞ。無関係な人間を襲わないように躾けておけ。もう不可能だがな」
その男は、『悪』そのものだった。この悪人集団のボスとは次元が違う、圧倒的な『悪』。並の悪党では超えられない『悪』。世界に嫌われし『悪』。
灰色のスーツを身に纏い、嫌悪感を身体中から放ち、悪意ある目で睨む、その男。
奴は、草むらから出て、姿をはっきりと現した。
忘れるはずはない。その風貌を。
忘れるはずはない。その声を。
俺は、その男の名を呼んだ。アイズの最大の敵であり、俺が知る中で最強クラスの男の名を。
「オーディン・グライト……!」
『イーヴィル・パーティー』のボス、オーディンは、色濃い悪意を振り撒きながらその場に君臨していた。




