第163話 「小悪党団」
アジトへの移動の途中、中年泥棒は自慢げに情報を吐き出してくれた。
「俺たちはアーネの街で活躍する、悪人集団だ。今はちっぽけな規模だが、いずれはあの『イーヴィル・パーティー』をも超える悪党になってやる! そのためにも、地道な悪行を積み重ねるのが重要って訳だ」
なるほどな。徒党を組む悪党はたくさんいるが、『イーヴィル・パーティー』を超える悪党はそうそういないだろう。
さしずめ、10人規模の子悪党共といったところか。
「だから盗みを働いたのか? 迷惑な奴だ」
「それ、褒め言葉だぜ」
悪事を責められて喜ぶとか、世も末だな。
いや、むしろ末の世か。
「集団ってことは、リーダーがいるんだろ? どんな奴だ」
「そりゃぁ、悪いお人さ。女子供にも容赦しない。悪魔のようなお方だぜ。悪名を広めるためなら、なんでもやる」
「お前、さっきから俺に情報を垂れ流しているが、お前のボスは怒らないのか? 仲間を売るようなもんだろ」
俺が指摘すると、泥棒は沈黙して、顔面蒼白になった。
「だだだだ大丈夫だ。おおお俺のボスは慈悲深いお方。仲間がどんなミスをしようが……ゆ、許してくださるお人だぜ」
「容赦しないんじゃなかったのか」
泥棒が動揺しているところを見ると、俺に嘘の情報を流して撹乱させている訳ではなさそうだな。
こんな迂闊な人間をメンバーに入れているあたり、その悪人集団は大した連中じゃないのだろう。
そうこうしているうちに、例のアジトへと到着した。
森の狩人の家を改造して作ったのだろうか。木とレンガでできた一軒家に、小さな物置が付いている。辺りの土が踏みしめられている形跡があるから、この家には頻繁に人の出入りがあるのだろう。だが、物置付近には足跡は少なかった。
鬱蒼と茂る木々に囲まれて、隠れ家としては上等な立地だろう。程よく木漏れ日も射すので、雰囲気もあまり陰湿すぎない。
森の中にアジトを構えるのなら、罠の一つや二つ用意されててもおかしくないのだが。俺がここに来るまでに罠は一つもなかった。用心が浅いのか、もしくはこの泥棒みたいなマヌケが罠に引っかかることを防ぐためか。
ともかく、あのアジトにファティオがいる。早く助けなければ。
「おい、ファティオが閉じ込められている場所はどこだ」
「俺は知らねぇ。嘘じゃねーぞ。ボスは知ってるだろうがな」
その台詞に、嘘は感じられなかった。表情や目線に異常は無い。本当に知らないのだろう。
となると、ボスに直接聞いた方が早いか。いや、戦闘になるだろうし、ここは安全策を取ろう。
「分かった。もうお前に用は無い。帰っていいぞ」
「おっ、アイズの兄ちゃん、案外優しいじゃねーか。俺みたいな悪党を見逃すなんてよ。じゃあな!」
そう言って泥棒はアジトに向かって走っていった。
もちろん、俺はあいつを見逃した訳では無い。泳がせたのだ。
奴がファティオの居場所を監禁場所を知らないのならば、奴が向かう先はファティオの所ではない。きっと、仲間の所に行くはずだ。となれば、戦闘を避ける為、俺は奴の行き先と反対方向に行く。無闇に戦うより、いち早くファティオを探す方がいい。
それにしても、年上に「兄ちゃん」なんて言われるのは違和感があるな。どうでもいいけど。
「早く見つかるといいんだが」
泥棒は一軒家の玄関に向かったので、俺は物置の方に向かった。
奴は仲間に俺の存在を伝えるだろう。そしたらすぐに俺の元に悪党共が来るはずだ。時間はあまりない。さっさとファティオを見つけてしまおう。
「と言っても、そう簡単に見つかるはず無いよな」
ファティオはすぐに見つかった。物置の扉を開けた先に、縄で縛られたファティオが座っていたのだ。口にはテープが貼られていて、喋れないようにされている。
「ファティオ! 無事か!」
俺はすぐさまファティオの元に駆け寄り、縄を解いてテープを剥いだ。
「来てくれたんですね。ありがとうございます、クロム隊長」
「怪我はあるか?」
「いえ、僕は大丈夫です」
ファティオは特に目立った怪我も無く、五体満足のようだった。無事でよかった。
こんなすぐ近くに監禁されていたなら、あの泥棒がファティオの居場所を知っててもおかしくない。でも、奴は「知らない」と答えた。この物置は埃がたくさん被っていて、人の出入りが多いようには見えなかった。埃まみれの床に足跡が見えているが、それも二種類だけ。悪党達はこの物置に頻繁に行き来はしてないのだろう。だったら、あの下っ端泥棒が知りえてなくても不思議じゃない。
「お前らしくないな。簡単に捕まるなんて」
俺もあんまり人のことは言えないがな。
「いやぁ、騒ぎを起こしたらクロム隊長に迷惑かかるかもしれないじゃないですか。今は僕達は目立たない方がいいので。それで、大人しく捕まって、隙を見て逃げ出そうとしたんです」
「そうだったのか。気を遣わせてしまってすまない」
「いえいえ」
とにかく、ファティオと再会出来てよかった。早くここから抜け出して……。
「おおっと待ちな、アイズの隊員さんよぉ」
だがそう簡単にいかないのが世の中だ。物置の入り口には、強面な巨漢が立ち塞がっていた。見るからに悪者って感じの見た目だが、小物っぽさも同時に漂っていた。低い声で、奴は俺達に言った。
「お仲間を連れて逃げる気か? そうはさせねーぜ。ファティオの野郎は、俺達の金儲けに使わせてもらう」
男は、大振りの剣を鞘から抜いて、こちらに向けた。おそらく、奴が例のボスだろう。
「そいつは有名な作家だ。きっと金をたんまり持ってるに違いない。それを奪って俺達の資金源に……」
「邪魔だ」
余計な御託を並べて隙だらけのボスに、俺はスタンガンの電撃を食らわせた。
「えっ? ぐわああああああああっ!」
台詞の途中で攻撃されるとは思ってなかったようで、奴は驚きの表情を浮かべたまま、スタンガンを受けて気絶した。
大きな体が倒れ、ズドンと重い音が鳴る。
「行くぞ、ファティオ」
「はい!」
悪党の戯言をわざわざ聞いてやる必要は無い。
俺とファティオは物置を出て、森の外に向かった。




