第162話 「ファティオはどこに」
その泥棒が答えた名は、紛れもなくクロム隊の副隊長、ファティオ・ハージのものだった。
「な、なんでファティオ副隊長を知ってるの?」
カインズ聞くと、泥棒は「そりゃぁ……」と言った後、慌てて口を噤んだ。
「って、言える訳ねーだろ! アイズなんかに情報をペラペラ喋ってたまるか!」
泥棒は俺達を睨んで言った。
このおっさんの言い方から察するに、ただ単に『ファティオが有名人だから知っていた』という訳ではないのだろう。ファティオは人気作家だから、広く名前が知られていてもおかしくないが、この男が喋りたがらないということは、何か秘密があるに違いない。
「けっ、そんじゃあ拷問でもして無理矢理にでも教えてもらうぜ」
エリックはポケットからスタンガンを取り出して泥棒の顔に近付けた。
「威力は弱めてあるが、ビリビリくるぜ。痺れたくなけりゃ、素直に喋って……」
「ちょっと待ちたまえ」
エリックを手で制して、ウォレットは小さな袋を取り出した。そして袋を開いて中身を見せる。中には、キラキラ光る金貨が入っていた。ざっと見たところ、10万ヴァルエ以上の価値はあるだろう。
「ファティオ・ハージについて君が知ってる情報を全て買い取ろう。全部で12万ヴァルエだ」
泥棒は金貨を目にした瞬間に顔色を変え、口を開いた。
「この金、全部くれんのか!? 話す話す! 全部教えてやるよ!」
こいつ、欲望に忠実な奴だな。ころっと態度を変えやがった。
「交渉成立だな」
ウォレットをエリックを見て言った。
「無闇に乱暴な手段に出るのはよくないよ。金で解決できることは金で解決するのが一番いい。後腐れ無く、手っ取り早いからね」
エリックは「わ、わかったよ……」と言ってスタンガンをしまった。
金で解決、か。ウォレットらしい考え方だが、貧乏人には向かない解決法だ。
泥棒は知ってる情報について語った。
「この前、俺の仲間がファティオって男から金を奪おうとして襲いかかったんだ。でも、ファティオは強くってよ。撃退されちまった。仲間がやられて黙ってられねーって、うちのボスがファティオに仕返しに行ったんだよ。数人がかりで襲って、やっとのことでファティオを捕まえられたぜ。それで、俺達のアジトに監禁中だ。今頃、奴隷市場に売り飛ばされてるかもな! ざまあみやがれ! ウハハハハハハハ!」
泥棒は武勇伝を語るように喋ったが、エリックが一睨みすると、畏縮して口を閉じた。
しかし、意外な情報だな。ファティオはこのルタ大陸に来ていたのか。家族とは話し合いを終えたのだろうか。家族と共にチェルド大陸に残る道ではなく、俺を助けにルタ大陸に行く道を選んでくれた。そのことが、まず嬉しかった。
だが、ファティオが悪党に捕まっているとなると、不安は拭えない。あのファティオがそう簡単にやられるとは思えないが、数人がかりで襲われたのなら、仕方なかったのかもしれない。多勢に無勢。数の多い方が有利なのは基本だ。
ファティオは、この泥棒の仲間がいるアジトに捕らえられているのだろう。となれば、早急に助けださねば。
「で、君が知っている情報はそれだけかね?」
ウォレットが尋ねると、泥棒は「ああ」と首を縦に振った。
「これ以上は知らねえ。お仲間が心配なら、助けに行くか? だがお前達は俺達のアジトの場所を知らない! 西の森にあることなんて、知りようがないのだ! 残念だったな! ウハハハハハハハ!」
「なるほど、ファティオ君は西の森にいるのだね」
「あっ」
泥棒は慌ててウォレットから目を逸らした。こいつ、馬鹿だな。おかげでアジトの場所を聞き出す手間が省けた。
「カインズは盗まれた袋をお店に届けてやってくれ。俺はこの泥棒を連れて、ファティオが監禁されているアジトに行く」
俺が指示すると、カインズは「了解しました」と言って、革の袋を受け取り、お店の方に走って行った。
「一人で行くのかよ。危険だぜ。俺も同行する」
エリックはそう言ってくれたが、俺は断った。
「俺一人でいい。大勢でアジトに行ったら、目立ってしまう。敵に見つからないようにしないとな」
俺一人なら、100人の軍勢が相手でも遅れをとらない自信がある。体の調子は万全だし、俺の手元には『クロミール』があるしな。
別に、アジトにいる悪党共と戦う必要は無い。いや、この泥棒の仲間とやらは、アイズとしては放っておけない存在だが、まずはファティオの救出が優先だ。
俺は泥棒の襟を掴んで、脅すように言った。
「道案内をしてもらうぞ。余計な真似をしたら……分かってるな?」
中年泥棒は怖気づいた表情で「は、はいいぃぃ!」と返事をした。




