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絶え損ないの人類共  作者: くまけん
第二章 ルタ大陸編
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第158話 「救出」

 カインズは手錠に繋がった鎖を両手で掴み、手錠に思いっきり蹴りを食らわせた。鋭い金属音が鳴り、鎖が外れる。

「鎖、外しますね」

 カインズは、残りの鎖も同じように破壊した。それに従い、俺は体の自由を手に入れた。手足と首には手錠が残っているが、手錠単体では束縛はできない。

 俺はまな板の上から下ろされ、地面を踏む感覚を取り戻した。

「助かった、カインズ。ありがとう」

「礼には及びませんよ」

 モーグモとターヴェルは状況の不利を悟ってか、脱兎の如く逃げ出した。慌てた様子で向かい側のドアに手を触れる。

「逃がすか」

 逃がしていいはずがない。

 俺は地面を蹴り、全力で前に踏み込んだ。モーグモ達と俺の距離が一瞬にして縮まる。俺は前進の勢いを殺さないまま、体を回転させてモーグモを蹴った。「ぶへっ!」という醜い声と共に、モーグモが前に倒れる。

「ひいっ!」

 ターヴェルは甲高い声を出して恐怖の表情を見せた。俺はターヴェルの襟を掴んで、俺の方へ引っ張った。バランスを崩したターヴェルが、うつ伏せになって床に激突する。

 二人が動きを止めた隙に、俺はポーチから麻酔針を出して二人に刺した。ピクリと痙攣した後に、モーグモとターヴェルは動かなくなった。

「お返しだ」

 ほんの数秒の攻撃だった。この一連の動きは、ほぼ無意識だった。考えるより先に、モーグモとターヴェルを倒していた。

 数多の戦闘経験故のことだろうが、それ以上に、俺の静かな怒りがもたらしたとも思える。

 『この二人だけは絶対に仕留める』という感情が、俺の中で渦巻いていた。


 モーグモとターヴェルの二人は『熊飼のロープ』で縛っておき、部屋の隅に置いた。目が覚めても、身動きが取れないようにしておくためだ。

「クロム隊長。お怪我はありませんか?」

 カインズが心配して聞いてくれた。

「ああ。問題ない。それより、フロマが……」

 カインズはフロマの死体に目をやった。無残にも食い千切られたフロマの姿が、カインズの目にも映った。

「フロマさん……」

 カインズはフロマの死体に近付き、彼女の綺麗な顔に手を触れた。

「すみません、ボクがもっと早く助けに来ていたら」

「お前は悪くない。恨むべきはあの人食い共だ」

 カインズは縛られているモーグモとターヴェルを見た。

「彼らは人を食べていたんですか」

「そのようだな」

 嬉しそうにフロマを食べていたモーグモの姿が思い出される。

「ところでカインズ。お前、どうして俺がここにいるって知ったんだ?」

「ウォレットが教えてくれたんですよ」

 何? じゃあウォレットはあの時、俺に気付かずに部屋を離れた訳ではないのか。

 俺がここにいると感付いて、カインズをここに呼んだのか。

「その通りだよ! この僕様のおかげで貴女は助かったのだ! 感謝してもいいんだよ?」

 馬鹿みたいな大声を出しながら、ウォレットが部屋に入ってきた。

「ウォレット。お前も来てたのか」

「そうとも! 僕様がここを訪れた時、クロム嬢がこの部屋に監禁されていると確信してね。急いでクロム隊のメンバーに連絡を取ったという訳だよ!」

「そうか。よく気付いてくれたな。ありがとう」

 俺が礼を言うと、ウォレットは鼻高々に笑った。

「美人に褒められるのは気分がいいね」

「でも、なんでウォレットは俺の存在に気付いたんだ?」

「おや、分からないのかい? 君とあろうものが、意外だね。生命の危機を感じて思考が鈍ったのかな? では僕様がお答えしよう! モーグモが僕様の質問に答えた時、彼は『クロム嬢がダンスホールを出た』と言った。おかしいね。僕様は『男装した女性を見かけたか』と尋ねたのに、彼はクロム嬢の名前を答えた。何故モーグモは、『男装した女性がクロムである』と判断したのか。もしや、クロム嬢が服を剥がさせるなりして、性別がばれたのかもしれない。ダンスホールにいた時のクロム嬢は、どこからどう見ても女性だった。男だと勘違いするはずがない。よって、クロム嬢を『男装した女性』だと思うのは、アイズの制服を着たクロム嬢を見ている人物のみ。従って、モーグモの発言に疑いの余地が生まれた訳だよ。だから僕様は、早急に救援を頼んだ。僕様一人だと、失敗の可能性があるからね。一旦室外に出て、発煙筒を用いて狼煙を上げた。僕様の会社が制作した防犯グッズだ。煙が高く昇り、遠くに危機を伝えられる。そして、狼煙に気付いたカインズ君が来てくれたのだよ」

 ウォレットは長ったらしいセリフを述べた。説明なのか自慢なのか自社の宣伝なのかよくわからないが、俺を救ってくれたのは感謝するしかない。

 でも、フロマは……。

「……すまない、ウォレット。俺がいながら、フロマを助けられなかった」

 俺はウォレットに向かって頭を下げた。せっかく助けに来てくれたのに、彼の妹はもう帰ってこない。

 二度と、あの明るい笑顔を見ることはできないんだ。

「…………そうか」

 ウォレットはゆっくりとフロマの死体に近付き、彼女の頭を撫でた。

「自慢の妹だった。優しくて賢い子だった。僕様をいつも慕っていてね」

 ウォレットはフロマから手を離し、俺の方を見た。

「悲しいことだ。だが、フロマの死を君のせいにする気はないよ。クロム嬢も命の危機に瀕していたのは分かっている。君も被害者だ。感情に狂わされて、存在しない責任を押し付けるのは、愚か者がすることだよ。だから君が謝る必要は無い。僕様は、フロマが安らかに眠ることを祈るだけだよ」

 ウォレットは、どこまでも冷静だった。だが決して冷酷ではない。心は涙を流しているはずだ。それを顔に出さないだけ。本当は、誰よりも泣き喚きたいはずなのに。

「さて、モーグモ夫妻を警察に届けないとね。君達は警察と会わない方がいい。この二人は僕様の部下に連れて行かせよう」

 ウォレットは手のひらサイズの機械をいじって、どこかに連絡したようだ。俺とカインズは、モーグモとターヴェルを部屋の外に運び出した。

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