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絶え損ないの人類共  作者: くまけん
第二章 ルタ大陸編
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第150話 「クイズのお時間です!」

 ウォレットが金銭援助をしてくれるのなら、もうこのダンスホールには用はない。となればさっさと帰りたいところだが、その前にウォレットが俺に話しかけてきた。

「クロム嬢。僕様が君達に協力するにあたって、君達のことをもっと知っておきたいんだ。よく知らない人物に金を渡すのはよろしくないからね。僕様の情報収集能力が高いとはいえ、直接言葉を交わさないと分からないことも多い。僕様と雑談でもしないかい? きっと有意義な時間になるさ!」

 その意見は一理ある。ウォレットという人物を知っておかねば、俺はこいつを信頼できないだろうからな。今後のことを含めて、みんなで話すのも大事だ。

「そうだな。まずは何から聞きたい?」

「君達がこの大陸に来た理由や、君達が置かれている状況だね。大方知っているけど、直接聞きたいんだ」

「分かった」

 俺はウォレットに今の状況を教えた。チェルダード警察に濡れ衣を着せられていること。そのせいで追われていること。ルタ大陸に逃げたため、ひとまずは安心できそうということ。でもお金が無くて困っているということ。

 ウォレットは俺の話に注意深く耳を傾けてくれた。自分が話す時は畳み掛けるようにペラペラと話すが、人の話を聞く時は黙って聞いてくれるようだ。こう言うところは、彼がカリスマ経営者たる所以なのだろう。対話技術が上手い。自分のペースに相手を乗せつつも、相手を不快にさせないトーク技術。大げさで自信過剰なしゃべり方も、ウザいとは思うが不愉快には感じない。愛嬌というか、個性というか。

 気付けば、最初に抱いていた警戒心は少しずつ薄くなっていった。


「ふーむ、なるほど。だいたい僕様の持っている情報と一致しているね。でもクロム嬢。チェルダード警察が金輪際君達を追ってこない保証はないよ」

「それは分かっている。俺達はまだ、逃亡者の立場だ」

「おお、これは失礼したね! 君は聡明な人物だ。このくらい、十分理解しているだろう。しかし、この情報は知らないはずだ。チェルダード警察の警視総監……ツウィエル・ドルテが何か仕掛けようとしていることはね!」

「何?」

 チェルダードの警視総監が?

「君達も知っての通り、国際条例に従えば、チェルダード警察はルタ大陸に来て捜査することはできない。よって君達が捕まることはないと思える。だがね、ツウィエルはルトゥギア国の政府関係者と交渉して、君達を追いかけるつもりでいるらしい」

「それって、チェルダード警察がこの大陸まで来るってことですか!? 大変じゃないですか!」

 ウォレットの話を聞いたユリーナは、飛び跳ねながら慌てて言った。

「落ち着きたまえ、ユリーナ・アイルス君。まだチェルダード警察が来ると決まった訳ではない。可能性の話だ。でもツウィエルという男は交渉術に長けた人物だと聞いている。わが国の無能政治家共なら、簡単に籠絡されてしまうかもしれないね」

「ウォレットって歯に衣着せぬ言い方する時あるよね。正直というか、何というか」

 カインズは目の前に座る友人に向かって言った。

「まあね。僕様は駄目な部分は駄目だと言うタイプだ。さてここでクイズでもしようか。難しい話ばかりだと気が滅入るだろう? じゃあ問題だ! 先程僕様はルトゥギア政府を『無能』と言ったが、具体的にどんなところが無能なのでしょーか? ミミ・チプル君! 答えたまえ」

「えっ、わたし!?」

 急に指名されたミミは、戸惑いながら答えに困っている様子だった。

「えっと……」

「難しく考える必要はないさ。君はルタ大陸の出身だろう? 君がこの大陸で暮らしていた頃、国の政治に対して不満に思っていたことを言うだけでいい」

 そうだ。ミミはルタ大陸の農業都市ポロクロロの出身。正確に言えば、ポロクロロの端にある小さな農村の生まれだ。

 ウォレットは、そんな情報まで握っていたんだな。

「不満、ですか。いえ、特には……」

「無いのかい? 例えば、そう……」

 ウォレットは言葉を選ぶように、ゆっくりと言った。

「君の、生まれ故郷について、とか」

 それを聞いたミミは、口をつぐんで下を向いた。あの故郷のことは、ミミにとって、思い出したくない過去。考えたくないのかもしれない。

 でも、ミミは口を開いた。

「あの村のことは、確かに不満です。不満しかありません。でも、それは国のせいじゃない」

「そうかね? 国民の悪しき風習を放置しておくのは、国の怠慢だと、僕様は思うがね」

 ウォレットは一旦言葉を止めて、また話を続けた。

「気を悪くしたなら謝罪しよう。君の名字が『チプル』だと知った時から、もしかしてと思って、より深く調査したんだ。そしたら予想通りだったよ。君の過去は、僕様みたいな貴族には想像もつかない程の壮絶なものだった。辛かっただろう。他人の僕様でも、同情はできる。同情くらいしか出来ないのが、悲しいがね。エリートの僕様でも、人々に根付いた古臭い価値観をねじ曲げるのは難しい」

 ウォレットはミミの過去も知っていた。彼女の人生にのしかかる、思い過去。

 忌まわしき、差別と偏見の過去を。

「クイズの答えを言おうか。答えはいくつもあるが、最も述べるべきは『法整備の遅さ』だよ。ルトゥギアは治安がいいとはお世辞にも言えない。そのくせ、法律の制定が遅いのさ。新たな犯罪や社会問題が発生した時に、それに対処する法律が定まるのが遅れているのだよ。例えば、愚かな国民が人を差別し、理不尽を強いているというのに、国はそれを解決できないでいる。権力と財力を国民の幸福のために使えていない。では第2問だ。何故、法律の制定が遅いと思う? エリック・ドール君、分かるかい?」

 解答権を得たエリックは、すぐさま答えた。

「ルトゥギアが国の発展を最優先にしてたからだろ。『はじまりの日』から人が大量に死んだルトゥギアは、何よりも経済の発展を優先した。多少治安が悪くなったり法律が機能しなくなっても、国が豊かになるためには仕方ないってな。その職務怠慢のツケを、五十年後の今になっても払えてねーんだろ」

「正解! よく知っているね、エリック君」

「昔、親父に教えてもらったからな」

「ほうほう。君のお父上は博識でいらっしゃるようだね」

 そりゃそうだろうな。エリックは機械に関する知識や技術が豊富だ。それはエリックのお父さんから受け継いだと聞いている。エリックの父親が優秀なのも頷ける話だ。

「エリック君が答えたように、この国は五十年前から大きな発展を遂げている。世界一経済力があると言っても過言じゃないし、その立役者は僕様だと言っても過言じゃない。ルトゥギアは経済成長のために手段を選ばなかったからね。その結果が現在の有り様だよ。チェルダード王国は王制だから、法律の施行や予算の決定も早く終わるだろう。だがルトゥギアは民主主義だ。無能な老人共が不毛な論議を長く続け、表面上は仕事をしているように見せかけているだけ。政治の結果が現れるのが一足遅い。時代の速度に追いつけていないのが現状だ」

 ウォレットは長い話を続けている。一体何が言いたいのだろう。

 と思っていたら、ウォレットは話をまとめた。

「つまり僕様が言いたいのはね。この国は色々と不安定だということだ! 確かに先進国だが、全体的な国力ではチェルダードに劣る。もしツウィエルがルトゥギア政府に交渉を持ちかければ、君達にとって不利な結果が待っているかもしれない。でも安心するといい! 僕様が君達を救ってあげよう!」

 ウォレットはクロム隊のみんなを見据えて、言った。


「君達が僕様の会社の社員になったらね!」

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