第150話 「クイズのお時間です!」
ウォレットが金銭援助をしてくれるのなら、もうこのダンスホールには用はない。となればさっさと帰りたいところだが、その前にウォレットが俺に話しかけてきた。
「クロム嬢。僕様が君達に協力するにあたって、君達のことをもっと知っておきたいんだ。よく知らない人物に金を渡すのはよろしくないからね。僕様の情報収集能力が高いとはいえ、直接言葉を交わさないと分からないことも多い。僕様と雑談でもしないかい? きっと有意義な時間になるさ!」
その意見は一理ある。ウォレットという人物を知っておかねば、俺はこいつを信頼できないだろうからな。今後のことを含めて、みんなで話すのも大事だ。
「そうだな。まずは何から聞きたい?」
「君達がこの大陸に来た理由や、君達が置かれている状況だね。大方知っているけど、直接聞きたいんだ」
「分かった」
俺はウォレットに今の状況を教えた。チェルダード警察に濡れ衣を着せられていること。そのせいで追われていること。ルタ大陸に逃げたため、ひとまずは安心できそうということ。でもお金が無くて困っているということ。
ウォレットは俺の話に注意深く耳を傾けてくれた。自分が話す時は畳み掛けるようにペラペラと話すが、人の話を聞く時は黙って聞いてくれるようだ。こう言うところは、彼がカリスマ経営者たる所以なのだろう。対話技術が上手い。自分のペースに相手を乗せつつも、相手を不快にさせないトーク技術。大げさで自信過剰なしゃべり方も、ウザいとは思うが不愉快には感じない。愛嬌というか、個性というか。
気付けば、最初に抱いていた警戒心は少しずつ薄くなっていった。
「ふーむ、なるほど。だいたい僕様の持っている情報と一致しているね。でもクロム嬢。チェルダード警察が金輪際君達を追ってこない保証はないよ」
「それは分かっている。俺達はまだ、逃亡者の立場だ」
「おお、これは失礼したね! 君は聡明な人物だ。このくらい、十分理解しているだろう。しかし、この情報は知らないはずだ。チェルダード警察の警視総監……ツウィエル・ドルテが何か仕掛けようとしていることはね!」
「何?」
チェルダードの警視総監が?
「君達も知っての通り、国際条例に従えば、チェルダード警察はルタ大陸に来て捜査することはできない。よって君達が捕まることはないと思える。だがね、ツウィエルはルトゥギア国の政府関係者と交渉して、君達を追いかけるつもりでいるらしい」
「それって、チェルダード警察がこの大陸まで来るってことですか!? 大変じゃないですか!」
ウォレットの話を聞いたユリーナは、飛び跳ねながら慌てて言った。
「落ち着きたまえ、ユリーナ・アイルス君。まだチェルダード警察が来ると決まった訳ではない。可能性の話だ。でもツウィエルという男は交渉術に長けた人物だと聞いている。わが国の無能政治家共なら、簡単に籠絡されてしまうかもしれないね」
「ウォレットって歯に衣着せぬ言い方する時あるよね。正直というか、何というか」
カインズは目の前に座る友人に向かって言った。
「まあね。僕様は駄目な部分は駄目だと言うタイプだ。さてここでクイズでもしようか。難しい話ばかりだと気が滅入るだろう? じゃあ問題だ! 先程僕様はルトゥギア政府を『無能』と言ったが、具体的にどんなところが無能なのでしょーか? ミミ・チプル君! 答えたまえ」
「えっ、わたし!?」
急に指名されたミミは、戸惑いながら答えに困っている様子だった。
「えっと……」
「難しく考える必要はないさ。君はルタ大陸の出身だろう? 君がこの大陸で暮らしていた頃、国の政治に対して不満に思っていたことを言うだけでいい」
そうだ。ミミはルタ大陸の農業都市ポロクロロの出身。正確に言えば、ポロクロロの端にある小さな農村の生まれだ。
ウォレットは、そんな情報まで握っていたんだな。
「不満、ですか。いえ、特には……」
「無いのかい? 例えば、そう……」
ウォレットは言葉を選ぶように、ゆっくりと言った。
「君の、生まれ故郷について、とか」
それを聞いたミミは、口をつぐんで下を向いた。あの故郷のことは、ミミにとって、思い出したくない過去。考えたくないのかもしれない。
でも、ミミは口を開いた。
「あの村のことは、確かに不満です。不満しかありません。でも、それは国のせいじゃない」
「そうかね? 国民の悪しき風習を放置しておくのは、国の怠慢だと、僕様は思うがね」
ウォレットは一旦言葉を止めて、また話を続けた。
「気を悪くしたなら謝罪しよう。君の名字が『チプル』だと知った時から、もしかしてと思って、より深く調査したんだ。そしたら予想通りだったよ。君の過去は、僕様みたいな貴族には想像もつかない程の壮絶なものだった。辛かっただろう。他人の僕様でも、同情はできる。同情くらいしか出来ないのが、悲しいがね。エリートの僕様でも、人々に根付いた古臭い価値観をねじ曲げるのは難しい」
ウォレットはミミの過去も知っていた。彼女の人生にのしかかる、思い過去。
忌まわしき、差別と偏見の過去を。
「クイズの答えを言おうか。答えはいくつもあるが、最も述べるべきは『法整備の遅さ』だよ。ルトゥギアは治安がいいとはお世辞にも言えない。そのくせ、法律の制定が遅いのさ。新たな犯罪や社会問題が発生した時に、それに対処する法律が定まるのが遅れているのだよ。例えば、愚かな国民が人を差別し、理不尽を強いているというのに、国はそれを解決できないでいる。権力と財力を国民の幸福のために使えていない。では第2問だ。何故、法律の制定が遅いと思う? エリック・ドール君、分かるかい?」
解答権を得たエリックは、すぐさま答えた。
「ルトゥギアが国の発展を最優先にしてたからだろ。『はじまりの日』から人が大量に死んだルトゥギアは、何よりも経済の発展を優先した。多少治安が悪くなったり法律が機能しなくなっても、国が豊かになるためには仕方ないってな。その職務怠慢のツケを、五十年後の今になっても払えてねーんだろ」
「正解! よく知っているね、エリック君」
「昔、親父に教えてもらったからな」
「ほうほう。君のお父上は博識でいらっしゃるようだね」
そりゃそうだろうな。エリックは機械に関する知識や技術が豊富だ。それはエリックのお父さんから受け継いだと聞いている。エリックの父親が優秀なのも頷ける話だ。
「エリック君が答えたように、この国は五十年前から大きな発展を遂げている。世界一経済力があると言っても過言じゃないし、その立役者は僕様だと言っても過言じゃない。ルトゥギアは経済成長のために手段を選ばなかったからね。その結果が現在の有り様だよ。チェルダード王国は王制だから、法律の施行や予算の決定も早く終わるだろう。だがルトゥギアは民主主義だ。無能な老人共が不毛な論議を長く続け、表面上は仕事をしているように見せかけているだけ。政治の結果が現れるのが一足遅い。時代の速度に追いつけていないのが現状だ」
ウォレットは長い話を続けている。一体何が言いたいのだろう。
と思っていたら、ウォレットは話をまとめた。
「つまり僕様が言いたいのはね。この国は色々と不安定だということだ! 確かに先進国だが、全体的な国力ではチェルダードに劣る。もしツウィエルがルトゥギア政府に交渉を持ちかければ、君達にとって不利な結果が待っているかもしれない。でも安心するといい! 僕様が君達を救ってあげよう!」
ウォレットはクロム隊のみんなを見据えて、言った。
「君達が僕様の会社の社員になったらね!」




