第148話 「ウォレット・ミカウツ」
フロマに似た口調で、金髪のオールバックで、自信満々の男。一体どこにいるやら。
「ボク、トイレに行ってきますね」
カインズはそう言って俺から離れて行った。
「ああ。行ってこい」
ウォレットの顔を知っているカインズが場を離れると、ウォレットを探しにくくなるが、仕方ない。すぐに戻ってくるだろう。
カインズの帰りを待っていると、タキシード姿の男性に声をかけられた。二十代くらいの若い男だった。
「フハハハハハハハ! そこの麗しいお嬢さん。ダンスのお相手をお探しかな?」
なんだこいつ。俺と踊りたいのか。俺は口説かれている暇は無いんだがな。
……ん? ちょっと待て。こいつの髪型……金髪のオールバックだ。
「でしたらこの僕様が一緒に踊って差し上げましょう! 貴女の美しさは、この僕様に釣り合う価値がある。誇りに思っていただいて結構ですよ。この僕様と至福のひと時を味わえることを!」
自信満々で、ナルシスト気味な口調。貴族特有の整った所作。
こいつ、まさか……。
「おおっと失礼。まだ名乗っていませんでしたね! 一度しか名乗らないので、よくお聞き下さい。僕様の名はウォレット・ミカウツ! ミカウツ家の次男にして、時代が求めし秀才、ウォレット・ミカウツです!」
二回名乗ってるじゃねーか!
「貴方がウォレット・ミカウツ……」
イメージ通り……いや、イメージ以上の人物だ。
「そうですとも。僕様のことをご存知のようですね。当然! なぜなら僕様は名実ともにエリート! ルタ大陸にその名を轟かす有名人! 本来ならばこんなパーティーに来る暇がない程の敏腕経営者ですからね! あ、サインの要求はお控え下さい。悪用されると困るのでね!」
ウォレットは俺に喋る暇を与えない程にペラペラと話を続けた。
俺はウォレットのやかましい自慢話を聞きに来たんじゃない。さっさと本題に移りたいところだ。
俺は金持ちの令嬢のフリを続けつつ、話を切り出した。
「あの……実は貴方にお話があって……」
「分かってます。分かってますとも! どんな女性も、この僕様を前にしては高ぶる感情を抑えきれないとね! 貴女のような美しい方なら大歓迎ですよ。さあ、こんなところでする話じゃない。僕様と一緒に外に行こうではありませんか!」
ウォレットは俺の腕を引っ張って、ダンス会場の外に連れ出した。妹のフロマに似て、強引に。
「えっ……」
何か勘違いされてそうだが、ウォレットと話ができるなら好都合。俺はエリックとミミとユリーナに手で合図を送り、俺についてくるように指示した。三人は俺の合図に気付くと、周りに怪しまれないようにそっと会場を後にした。
「クロム隊長、戻りましたよ……あれ? ウォレットも一緒だ。見つかったんですね」
トイレから帰ってきたカインズが、俺とウォレットを見て言った。
「おや、カインズ君じゃないか! 君もここにいたんだな! ちょうどいい。久しぶりに会った友人に、楽しい話を聞かせてもらおうじゃないか!」
カインズを見つけたウォレットは、カインズの腕も掴んでグイグイと前進した。
「ん? あれ? どういうこと?」
カインズは不思議そうに尋ねた。
小さな画面が等間隔でいくつも壁に貼り付けてある廊下を抜け、俺達はダンスホールの外に出た。
ダンスホールの外にある野外休憩所で、ウォレットは歩みを止めた。
「うむ。ここならパーティーの参加者に邪魔されないだろう」
俺とカインズとウォレットは、近くの椅子に座った。
「さて、思う存分語り合おう!」
ウォレットがそう言うので、俺は本題を話し始めた。
「えっと、私、ウォレットさんにお願いがあって……」
「『金持ちの令嬢の演技』はもう止めたまえ。ここには僕様達しかいない。嘘は必要ないはずだ」
ウォレットが静かな口調で言った。先ほどまでの馬鹿みたいな大声とは違い、冷酷さと知性を感じさせる声色だった。
明らかに、ウォレットから感じられる雰囲気が変わった。彼の目はまっすぐ、俺の瞳を見つめていた。
「そうだろう? アイズ実働部隊『クロム隊』隊長の、クロムさん」




