第146話 「ダンスパーティーへ」
パーティーといえばカインズが中央都市に帰った時に一度経験したが、やはり金持ちの小洒落た雰囲気は慣れないものだ。中央都市のやつに負けず劣らず、このダンスパーティーも華やかだった。
広い会場を照らすシャンデリア。花模様の絨毯。正装をした男女。少しばかりの喧騒。ここがパーティーの会場か。
「なんだかチェルダードの王宮を思い出しますね」
カインズが言った。カインズは貴族だから、王宮に入ったこともあるんだろうか。
「しかし、思ったより簡単に侵入できたな」
参加者の見た目にしか興味がないというのは本当らしいな。ちょっと『それっぽい』格好をしただけで、容易く会場に入ってこれた。
「見張りの人、なんだか品定めしているみたいにジロジロ見てきましたね」
ユリーナはそう言いながら、ドレスの胸下をしきりに触っていた。
「っていうか、このドレス、胸元が締め付けられるんですけど」
「サイズは合ってないかもってアレイシアが言ってたな。苦しいだろうが、しばらく我慢してくれ」
俺が着ればピッタリのサイズだろうが、胸がそれなりに大きめのユリーナは圧迫感があるだろう。
さて、問題のウォレット・ミカウツの所在だが。奴はどこだ。
「カインズ。ウォレットの特徴を教えてくれ」
「ええっとですね。彼は金髪で、オールバックで、自信満々の表情をしてますね。口調は馬鹿みたいですが、発言の内容は大人びてます。今頃、どっかの令嬢をナンパしてるんじゃないですかね。でも、彼に最後に会ったのは5年くらい前なので、見た目の特徴は変わっているかもしれません」
なるほど。大体の人物像は把握できた。
そうこうしている内に、ダンスパーティーが本格的に始まった。開始の合図を告げるのは、このパーティーの主催者である、グローランス家の当主。モーグモ・グローランス氏だ。
「えー、皆様。今夜はわたくしめが主催するパーティーにご参加いただき、感激の至りでございます。どうか今夜は、皆様が満足なさるまでお楽しみ下さい」
ダンスパーティーは、自由にパートナーを選び、思い思いの踊りを披露する形式だそうだ。会場の隅には軽食が置かれており、これまた自由に食することができる。軽食と言っても、庶民じゃ手が出せないような高級料理ばかりだ。
「彼はモーグモ・グローランス。この地域の中級貴族ですね。貿易業で一財産稼いだ富豪です」
「へえ」
カインズが説明してくれたモーグモは、太った中年だった。ボリュームのある黒ヒゲが、権威と財力を象徴しているように見える。
カインズは、モーグモの隣に立っている女性についても説明してくれた。
「隣に立っているのは、モーグモ氏の奥さんである、ターヴェル・グローランス夫人です。似た者同士の夫婦だと評判ですよ」
「ほお」
確かに、ターヴェル夫人の体型はモーグモと似たり寄ったりで太っていた。このおっさんとおばさんは、普段何を食っているのだろう。肉ばかり食べてそうだな。
「しかし、何でパーティーなんか開催したんだろうな」
「金持ちはパーティーが好きですからね。特に理由がなくても、すぐパーティーを開いたりするんです」
「金がかかりそうだな」
「そのくらい、彼らにとってははした金ですよ」
そうなのか。この軽食だけで、何ヴァルエ消費するのやら。貧乏人には想像できないな。
「地元の有力貴族がパーティーを始めたとなると、参加しなくちゃいけないのが人間付き合いってものですよ。だからミカウツ家も参加してると思うんですけどね。どこかなー、ウォレットは」
参加者達は談笑したり踊ったりで楽しそうだ。
その様子を見たカインズは、俺の手をそっと握った。
「よかったら、ボク達も踊りませんか」
「俺達も?」
「ええ。折角ダンスパーティーに来たんですから」
カインズはダンス会場の隅っこを指差した。そこには、食事に没頭するエリックとユリーナの姿が。
「なんだこれ。うめぇ!」
「初めて食べる味ですよ!」
当初の目的を忘れたかのように、豪華な食事に釘付けになっていた。
「あいつら……」
何やってるんだ。そんなはしたない真似したら、周りに怪しまれるだろうが。カインズは指を元の位置に戻し、話を続けた。
「クロム隊長。あの二人がいない内に、あなたを独り占めしたい」
カインズは頭を掻きながら、言った。
「ダメ……ですか?」
カインズの言う通り、ここはダンス会場だ。まったく踊らないというのも、周りに怪しまれるだろう。
「……構わない。たまには踊ってみるのもいいかもな」
そして、俺はカインズと一緒に踊った。やはりカインズのダンスは上手いな。俺は全くの初心者だが、カインズのリードのおかげで、スムーズに踊れる。
「カインズ、お前上手いな」
「本当は得意じゃなかったんですけどね。レイティアとブブリアド大叔母様に教わったんですよ」
そうだったのか。でも、カインズが中央都市に滞在した期間はそんなに長くなかったはず。それでもこんなに上手くなれたのは、カインズの上達速度の速さ故だろう。
「クロム隊長こそ、なかなかお上手ですね。本当に初心者ですか?」
「戦闘の方がよっぽど激しく動くからな。このくらいなら難しくない」
と言っても、平民の俺が貴族に交じって踊っても違和感がないかどうかは、いささか不安ではあるな。
でもそんな不安をかき消すように、カインズは優しく俺を踊らせた。
楽しい時間だった。俺の置かれている状況を、忘れるぐらいに。




