第145話 「女物の服を着る時」
「おい、冗談だろ? この可愛らしいドレスを俺に着ろって言うのか!」
そのドレスは黄色の生地を基調とした、シンプルかつ可憐なものだった。余計な装飾を施さず、着る人の魅力を誤魔化さずに表現する、まさに職人の一品。無論ながら、男が着るものではないし、男装する女が着るものでもないだろう。
「いいじゃない。あんた女なんだから。ほらほら、可愛いわよぉ」
アレイシアはニヤニヤ笑いながら、俺にドレスを押し当ててきた。
「いや……俺は普段こんな風に男装しているし……今更女らしい格好するのも変だろ!」
俺は現在着ている、アイズの男子用制服を指差して言った。
「スリムなあんたなら、何着ても似合うわよ」
そういう問題では……。
「そうですよクロムさん! 私、女っぽい格好のクロムさんも素敵だと思います!」
ユリーナも目を輝かせながら、ドレスの着用を勧めてきた。
「うう……」
仕方ない。水着以外は男物の服を着たいんだが、諦めよう。
俺は更衣室に行き、制服からドレスへと衣装を変えた。
「うっひゃあああああぁぁぁーっ! かわいいですぅーっ!」
更衣室から出た俺の姿を見るや否や、ユリーナは奇声を発して俺を絶賛した。
「はわわ……。普段かっこいいクロムさんを見慣れている分、かわいいクロムさんの破壊力が凄まじいです……。あっ、鼻血が」
ユリーナは鼻から赤い血を垂れ流し、無様なニヤけ面を見せつけた。
「ほら、これで拭いて」
カインズがすかさずハンカチを取り出し、ユリーナの鼻に当てた。紳士だ。
「あ、ありがとうございます」
ユリーナは血を拭いて、興奮の面持ちのまま賞賛を続けた。
「やっぱクロムさんってスタイルいいですね! 華奢で可憐な姿、まるでお姫さまみたいです!」
そこにエリック参戦!
「だろだろ? クロムは姫……いや、俺の女王様だぜ! 強く凛々しく優しいクロムを、俺は心から愛しています!」
「私だって愛してますよ! しかも見てください! クロムさん、髪結んでますよ!」
ああ、これか。俺は結って短くまとめた髪を触った。パーティーに行くと多くの人に顔を見られるからな。今後厄介なことにならないよう、顔の印象を普段と変えておいた。ま、気休め程度の変装と言えるかな。ついでに、アレイシアから貰った花型の髪飾りも付けてある。
「ほ、本当だ! ドレス姿があまりにも魅力的すぎて、気付くのが遅れたぜ! いつもの長髪もいいが、こっちも捨て難いな!」
「かわいい!」
「かわいい!」
「抱きしめたい!」
「抱きしめたい!」
ユリーナとエリックが同時に俺に抱きついた。
「やめろ。せっかくのドレスが汚れる」
俺は二人の腕を掴み、軽く引き剥がした。そして体のバランスを崩れさせ、その勢いを保ったまま二人を近くの椅子に座らせた。
「あと、あんまり褒めるな。恥ずかしくなってくるだろ」
抱きしめを解除された二人は、うっとりとした眼差しのままで俺を見つめていた。
「照れてるんですか? かわいいです」
「うむ。全面同意」
普段は諍いばかり起こしてるくせに、こういう時だけ意気投合しやがって。まぁ、仲良くなった証と捉えるとしよう。
ユリーナとエリックがこれほど褒めるなら、(多少の贔屓目はあるだろうが)貴族達のパーティーに居ても違和感を覚えられることはないだろう。準備は整ったという訳だ。
「よし、お前らも着替えろ。もうすぐダンスパーティーが始まる」
俺の指示に従って、エリックとカインズとユリーナとミミが正装に着替えた。アレイシアの技術のおかげで、まるでお金持ちみたいな格好に仕上がっている。
「ん? そういえばアレイシアは?」
あいつだけ、ドレス姿になっていないが。
「ごめんねぇ。アタシ今回は不参加ってことで」
アレイシアは両手をくっつけて謝った。
「どうした? 何か用事か?」
「そうなのよぉ。どうしても外せない用事で。だから、あんたたち5人だけで行ってきてくれる?」
「構わない。そもそも、俺達の財布事情を解決するために行くんだからな。別にお前が無理して来る必要はない」
「ありがとうねぇ」
という訳で、アレイシアはその用事に。俺達クロム隊は、ダンスホールへと向かった。
「よし、行くぞ」




