第141話 「そして銭湯へ」
アレイシアとの訓練が終わったので、俺は食事の片付けを始めた。そこで、ユリーナが不審な動きをしていることに気付く。
「ユリーナ、お前何してる」
「あひゃぃ!」
ユリーナは奇妙な声をあげ、体をびくりと動かした。
「い、いや……その……」
ユリーナの足元には、もっこりした土の突起が見える。ついでに言えば、ユリーナの手は泥で汚れていた。推して見るに、ユリーナは手で小さな穴を掘ったのだろう。
「食事を埋めたのか? ユリーナ」
するとユリーナは涙を見せて俺にしがみついた。
「ぶえぇぇ……。すみませぇんクロムさん……。私、あれを食べきるのはどうしても無理です……。吐き気がしますぅ……」
捨ててしまったか。勿体無いが、流石に泣いている人に無理やり食べさせるのは気がひける。
「分かった。今回は許そう。あれは初心者には厳しすぎたな」
まともな飯を食べてきた人間には食し難いものだったからな。徐々にあの苦味に慣れさせていくしかないな。
「クロムさんはよく食べれましたね、あれ」
「俺は苦いものを口にするのは慣れているからな。お前には難しい味だったか」
「でもでも! クロムさんが『あーん』ってしてくれたら食べますよ、私!」
ユリーナは口を開けて『あーん』と言った。俺に食べさせて欲しいってか。なんて恥ずかしいお願いをするんだお前は。
「『あーん』ってそれはちょっと……。仕方ないな。ほら、『あーん』」
都合よく、非常用として残しておいた木の枝がここにある。俺は極めて苦い木の枝を、ゆっくりとユリーナの口に挿入した。固くて黒い棒がユリーナの口腔に入っていき、ユリーナはそれを幸せそうな顔つきで咥える。
「んふぅ、おいひいれふ」
食べながら喋ったせいで、『美味しいです』と言えてない。
「嘘吐け。お前さっき『まずい』って言ってただろ」
ユリーナは枝をよく咀嚼して、ごっくんと飲み込んだ。
「クロムさんが食べさせてくれたから、美味しく感じたんですよ」
「そんな訳あるか。今度から自分で食えよ」
「えー、嫌ですよー!」
ユリーナはもう一本の枝を握って、もっと欲しがるような眼差しで俺を見た。
「ヒューヒュー! おアツイわねぇ」
アレイシアが俺とユリーナを見て茶化してきた。あいつの妙におばさん臭い言動は相変わらずである。
「ずりぃぞユリーナ! 俺もクロムに『あーん』ってしてもらいたい!」
エリックも俺の前に来て口を大きく開けた。
「お前は一人で食えるだろ」
俺は食べ物の代わりにパンチを食らわしてやった。俺の拳がエリックの顔面に軽くヒット。エリックは「ぐほぉっ!」と言いながら地面に倒れた。
「痛い……でもこれもまた幸せ……」
「黙れマゾヒスト工場長」
さて、うるさい奴を黙らせたところで、そろそろあの時間だな。
「クロムさん、今晩、お風呂って入れるでしょうか……?」
そう、風呂だ。疲れた体を癒し、全身の老廃物を洗い流す時間だ。宿に泊まる金が無いとはいえ、銭湯に行く金くらいはある。是非とも入浴は欠かしたくないところだ。
「安心しろユリーナ。安い銭湯を探せば、風呂に入れる」
問題は、近くに安価な銭湯があるかどうかだ。9870ヴァルエで入れる風呂があるといいんだが。
「じゃあ、『100ヴァルエ銭湯』に行きましょう」
カインズが提案した。
「『100ヴァルエ銭湯』? なんだそれは」
「その名の通り、一人100ヴァルエで入れる銭湯ですよ。ルタ大陸ではよく見かけるお店です。手頃なお値段なので、結構庶民に人気なんですよ」
都合がいい。なんて貧乏人に優しい店なんだ。
「よし、ならその100ヴァルエ銭湯に行くぞ!」
俺達は意気揚々と100ヴァルエ銭湯に向かった。だが、安いものには裏があるというもの。低価格の理由は、銭湯に着いてすぐに明らかとなった。
その銭湯は、混浴だった。




