第140話 「アレイシアVSクロム 〜偽〜」
実に6年ぶりくらいだろうか。アレイシアと一戦交えるのは。ラトニアのアジトでロマノと一緒に合同訓練した時以来か。懐かしい。
あの時のアレイシアはそこそこ強かった。一対一の戦いでは、俺の勝率は6割くらい。当時16歳だったアレイシアは、既に隊長になっていた。戦闘技術は優れていたと言えるだろう。
アレイシアは俺やロマノと同じく、『アイズ流護身術』の使い手である。相手の力を利用し、できるだけ少ない力で相手を無力化する格闘術。力の弱い女でも、大の男を圧倒することが可能な戦闘術だ。ただし、簡単に習得できるものではない。高等テクニックなのだ。
俺達は食事を一段落させて、広い草原で模擬戦闘訓練を開始した。静かな大地の上で向かい合う、俺とアレイシア。隊長同士の戦いを、仲間達は緊張の目つきで見守っていた。
勝負のルールは、いつもの訓練と同じだ。武器の使用は禁止で、先の倒れた方の負け。
アレイシア相手に『クロミール』を使う必要はない。『クロミール』は本当の戦いに使う武器だからな。今から始めるのは、言うなれば『偽りの戦い』。武器の使用ができなくても十分だ。
「おーっし。準備はいいか二人とも」
審判を務めるエリックが、双方に確認を取る。なんだか、カインズと戦闘訓練した時を思い出すな。ユリーナがクロム隊に参加した時の、あの訓練だ。あの時も、エリックが審判だった。
俺とアレイシアが準備完了の合図をすると、エリックは手を挙げて叫ぶ。
「始め!」
先に仕掛けたのはアレイシアだ。俺がカウンターを得意としていると知っていながら、奴は先制攻撃を仕掛けた。何か狙いがあるのか。挑発? それとも、俺の現在の実力を計っているのか。
アレイシアの拳が、俺の右頬を狙って伸びる。速度はカインズにはるかに劣るが、隙の少ないパンチだ。つまり、カウンターをされたらすぐに体制を直せるような構えで殴ってきている。自分の体のバランスを崩さず、いつでも反撃できる状態にしておけば、隙は少なくなる。相変わらず、『アイズ流護身術』の基本に基づいた模範的攻撃だ。一言で言うなら、『上手い』。そうだ。アレイシアは『強い』というより『上手い』女だった。力やスピードはなくても、『上手い』動きで相手を翻弄する。俺と似たタイプの戦い方だ。しかも、決して身体能力が低い訳じゃない。どれをとっても平均以上だった。
「くっ!」
俺はアレイシアの攻撃を避け、姿勢を低くした。アレイシアの視界から消えるように動き、俺の動きを読みづらくさせるためだ。そしてアレイシアの腹めがけて、膝蹴りを狙う。
だがアレイシアは俺の反撃を読んでいた。アレイシアも腰を低くし、自身の豊満な胸で俺の膝蹴りを受け止める。分厚い脂肪がダメージを和らげた。さらに、俺の蹴りの威力を利用して後方に下がることにより、ダメージを最小限に抑えた。距離を設けつつ、お互いの様子を伺う。
「実力が衰えてないようで安心したわぁ。やっぱあんた強いわねぇ」
アレイシアは目を細めて笑った。
「お前も相変わらずのようだな」
昔と変わらず、精密かつ豪快な戦闘だ。乳で防御する奴はお前くらいだよ。多分。
「いやぁー、もう十分だわ! 戦闘訓練終了ねー」
そう言って、アレイシアは草むらに寝転んでしまった。
「もういいのか?」
お前がやりたいって言った訓練なのに、少しやっただけで終わるのかよ。マイペースな奴だ。
「うん、また今度ね」
まぁいいか。マイペースな奴には慣れている。特にユリーナのせいでな。
今の俺と今のアレイシア。どちらが勝つか知りたかったのは否めないが、あいつと戦うのは別の機会にお預けだな。




