第137話 「ルトゥギア国へ」
少し長めの船旅を終え、俺達はルタ大陸へとたどり着いた。ルタ大陸はチェルド大陸の北北東に位置する、巨大な大陸だ。南北に長く広がっており、三つの都市が存在する。一つは経済都市アーネ。二つ目は農業都市ポロクロロ。そして三つ目は首都ルトゥギアだ。それらの都市を含む多くの地域を治めるのが、『ルトゥギア国』だ。
『はじまりの日』以前はルタ大陸には『ルトゥギア国』『ポロクロロ王国』『アーネ共和国』の三つの国があったが、今は統一されて一つの国になっている。かつての三国が今のルトゥギア国の主要都市になっているのだ。
「ふわぁ〜っ! やっと着きましたねー!」
船から降りた途端、ユリーナは大きく背伸びをした。船でじっとしているのは体に堪えたらしい。
「ルトゥギア国に来るのは久しぶりだなぁ。うーん、昔と随分景色が変わってる」
カインズは船着場の周りを見ながら、懐かしそうに言った。
「さて。これからどうするか決めるぞ」
俺はみんなに今後の予定を伝えた。
「国際条例により、チェルダード警察はこの国に捜査をしにくることは出来ない。つまり、俺を追ってこれないってことだ。だが、ルトゥギア国が俺を引き渡せば、俺はチェルダード王国に連れ戻されることになる。よって俺達はできる限りルトゥギアにも見つからないように動きたい」
「ルトゥギアがお前をチェルダードに渡すとは思えないがな」
エリックの意見も一理ある。国家の利益を追求するルトゥギア国が、わざわざ金と時間をかけてチェルダード王国の敵を捕まえに来るとは思えない。むしろ経済的ライバルであるチェルダードの反逆者なら、ルトゥギアにとって利益になる存在でもあるかもしれない。だが、安心は出来ない。チェルダードに恩を売るために俺をチェルダードに渡すかもしれない。となると、ルトゥギア警察やルトゥギア政府には目を付けられないようにした方が無難だ。
「警戒はしておくに限る。という訳で俺達は、偽名と偽りの身分を使って、こそこそと生活していこうと思う」
「そんなことできるんですか?」
ユリーナからの質問だ。答えはイエス。
「できる。先進国のルトゥギアとはいえ、発展途上の無法地帯は多い。そこでは、戸籍も存在しない人たちが暮らしているはずだ。彼らに紛れていれば俺達の正体はバレにくいだろう」
「旅人に扮する手もあるよ。それなら怪しまれてもすぐに逃げやすい。どこかに定住するより、目立ちにくいと思うな」
カインズが提案した。
「それに、首都にあるアイズ本部に行けば、ロマノ団長が保護してくれるんじゃないかな」
「あ! それいいアイデアですよカインズさん!」
カインズの意見に、ユリーナが賛成した。首都ルトゥギアにあるアイズ本部には、ロマノがいるはずだ。あいつに頼めば、俺達を守ってくれるかもしれない。
「残念だけどねぇ。それ、出来ないのよぉ」
いつの間にか俺達の近くに、一人の女性が立っていた。いや、『一人の女性』なんてよそよそしい呼び方は不適切だ。アイズの制服を着た、桃色長髪の巨乳女。
「おひさー、クロム。あんた相変わらず貧相な体ねぇ。アハハハ!」
彼女……アレイシア・ルーンは、俺の古くからの友人だ。
「アレイシア……お前なんでこんなところに」
「なんでもクソもないわよ。アタシはこの大陸の担当者だからよ」
アレイシアは長い髪を掻き上げ、艶やかな声色で言った。
「あの……この人は誰なんです?」
ユリーナが尋ねると、アレイシアは大きな声で自己紹介した。
「あら? あなたクロムにアタシのこと聞いてないの? やーねー。親友のアタシのことくらい、教えておきなさいよ。アタシはアレイシア・ルーン。アイズ実働部隊『アレイシア隊』の隊長で、ルタ大陸の担当者よ。そんでもって、クロムのお友達」
アレイシアは腰に手を当てて胸を張った。そのせいで無駄に膨らんだ胸が揺れる。
「そうだったんですか! 私のクロムさんがお世話になっています! 私はクロムさんの生涯のパートナー、ユリーナ・アイルスです!」
ユリーナも負けじと胸を張って挨拶した。
「よろしく、ユリーナ。ところでクロム……」
アレイシアは俺に顔を近付けて、訝しむ目付きで俺を見た。
「『生涯のパートナー』ってどういうことよ。あんた、男装だけじゃ飽き足らず、ついには女の子に手を出したわけ? アタシは同性愛には肯定的だけど、あんたがそっち系の人だったとか驚いたわー」
「違う。あいつが勝手に言ってるだけだ」
それに、俺が男装してる理由は別にある。恋愛対象の性別は関係ない。
「話が逸れてるぞ、アレイシア。ロマノが俺を保護出来ないって、どういうことだ?」
「あぁ、そうそうそれそれ。実はねー」
アレイシアは髪をいじりながら告げた。
「今のロマノ団長は、あんたに構ってる暇がないのよ」
「というと?」
「団長は別の任務があって忙しいの。だからあんたが困っていても、助ける余裕がない。でも安心して。代わりにアタシが来たから。事情はだいたい知ってる。あんたの潔白を証明するまで、『アレイシア隊』があんた達の味方するから」
ロマノの任務か。団長自ら動くとなると、相当重要な任務なんだろう。俺が濡れ衣を着せられて追われているとは言え、重要な任務を放っておくわけにはいかないんだろう。
「分かった。お前が味方なら、頼りになる」
アレイシアは伊達に隊長を務めているわけじゃない。実力は折り紙付きだ。そのアレイシアが協力してくれるのなら、心強い。
「んじゃ、改めて作戦会議と行きましょうかー!」
アレイシアの号令の下、俺達はこの先の行動について再度話し合った。




