第134話 「さらばチェルド大陸」
俺は全ての事情を話した。俺が反逆の濡れ衣を着せられていること。チェルダード警察に追われていること。ルタ大陸に避難しようとしていたこと。
話を聞いたエリックは即座に言った。
「よし分かった。俺もついて行く」
エリックは立ち上がり、みんなに聞いた。
「お前らはどうする?」
ユリーナも迷いなき表情で言った。
「ついて行くに決まってますよ! クロムさんに寂しい思いはさせません!」
カインズとミミも頷いた。
「ボクはクロム隊長にお世話になったからね。恩を返さなきゃ」
「わたしも同じく。お供します」
ファティオは、思案顔で言った。
「ルタ大陸に行くとなると、長い間この大陸を離れることになりますね……」
ファティオが何を憂いているのか、俺には分かった。
「家族のことか?」
「……はい」
ファティオには愛すべき家族がいる。ラトニアの家で、ファティオの帰りを待っているはずだ。俺を助けるためにルタ大陸に行ったら、家族としばらく会えなくなるだろう。
「助けてくれとは言ったが、無理強いをする気はない。家族は大切だからな。お前がどの選択をしようと、否定するつもりは毛頭ない」
「分かっています。僕は迷っているんですよ。クロム隊長について行くべきか、ラトニアに残るべきか。お手伝いしますなんて言っておきながら、すみません」
「いいんだ。お前は自分に正直に生きろ」
ファティオが家族を何よりも大切にしていることは、よく知っている。美しい妻と可愛い子供達に囲まれている瞬間が、形容しがたい程に幸せそうだった。この前、ファティオの娘のコフィンちゃんが変態園長に犯されそうになった時、ファティオは普段の紳士ぶりからは想像もできないくらいに怒りを露わにしていた。
家族に会えない時間は、どれほど辛いのか。それを考えると、容易に「ついて来い」なんて言えなかった。
「すみません、クロム隊長。僕は、家族と話してきます。自分一人で決めることじゃない。皆さんは先に出国していて下さい。どうするか決めたら、答えは行動で示します。早くしないと、警察がここに来てしまう」
警察なら、おそらくもうアジトに突入しただろう。そこで俺がいないことを確認し、国中を探すはずだ。
時間は、無い。
「分かった」
ファティオはラトニアに向かって走った。
エリック、カインズ、ユリーナ、ミミは国際船に乗る準備を始めた。
「お前達はいいのか? 俺について来て」
「大丈夫ですよ!」
ユリーナは当然だと言わんばかりに答えた。
「クロム隊こそが俺達の居場所なんだ。お前にべったりくっついてやるから安心しろ」
エリックはいつものように軽口を叩いた。なんだか安心する口調だ。
「お待ちしておりました、クロム様。国際船の準備が整いました」
俺の側に、メイド服の若い女性が立っていた。やたら露出度が高い、白黒のメイド服だ。こういった服をなんて呼ぶんだったか。忘れた。
短めの茶髪と黒縁メガネが特徴的な、小柄な女の子だった。誰だろうか。港の職員? それにしては似つかわしくない服装だが。
「誰だ」
俺が聞くと、メイドは深々とお辞儀をして答えた。カインズやレイティアみたいな、端麗で無駄のない所作だった。
「わたくしはヴィルカートス様直属の部下、ロシナと申します。ヴィルカートス様に命ぜられ、あなた様をお迎えにあがりました」
ヴィルカートスが用意した迎えの人か。しかし、何故メイド服?
「その格好は、この港の制服なのか?」
「まさか。これはヴィルカートス様の趣味でございます」
「えっ」
なんか……聞いてはいけないことを聞いてしまった気がする。
「そちらにいらっしゃる方々は、クロム様のお仲間ですか? ご同乗するのであれば、どうぞ」
ロシナはエリック達も船に乗せてくれた。船には『ハルバート』と書かれていた。この船、ハルバート家の所有物か。いや、そもそもこの港がハルバート家の物なのかもしれない。
そして、ファティオを除いた5人が船に乗った。ファティオがもし来てくれるなら、別の船で来るだろう。
「船は自動操縦ですので、無闇に機械に触らないようにお願いします」
船着場で見送るロシナが忠告すると、エリックは「えー」と残念そうに呟いた。
船は陸から離れ、俺達の逃走劇が始まる。目指すはルタ大陸。見知らぬ外国だ。
不安はあるが、怖くはない。
俺は必ず、このチェルド大陸に帰ってきてみせる。
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