第131話 「エリック、工場を直す」
エリック・ドールは働き者である。幼い頃から父の手伝いとして、多くの機械に触れてきた。自分の仕事が好きだったし、誇りを持っていた。
だが、過剰な仕事量は時として人の情熱を奪うのである。
「な、なんだこりゃああああああぁぁぁぁ!?」
ついこの間までエリックが汗水垂らして働いていた工場は、先日の台風の影響で滅茶苦茶に破壊されていた。屋根が剥がれ、壁に穴が開き、室内には巨大な木が突っ込まれている。床中にガラスの破片が飛び散り、見るも無残な状態だ。仕事道具である機械達も、いくつか壊れてしまっている。
「俺の……俺の工場が……」
エリックは開いた口が塞がらず、呆然と工場を眺めていた。
工場には数人の従業員が集まって、工場の復興作業に移っていた。
「エリック工場長。見てないで手伝ってくださいよ。そりゃ、気持ちは分かりますけどね」
従業員の一人が、瓦礫を運びながらエリックに言った。エリックはハッと我に返り、「あ、悪りぃ」と言って工場の掃除を始めた。台風対策なんかしてなかった古い工場。こうなることは必然だった。虚無感を払いのけながら、エリックはテキパキと仕事に励んだ。
「ふぅ……ちょっと休憩」
作業が一段落ついたところで、エリックは近くの石に腰掛けた。まだまだやるべきことは多い。膨大な仕事量だ。
「こんな時、ロボットが手伝ってくれたらな……。そうだ! 作っちまおう!」
妙案閃いたり、とエリックが立ち上がると、従業員が止めた。
「何言ってんですか。ロボット作り終える前に復興作業が終わっちゃいますよ」
いくらエリックでも、数時間で新作ロボットを作れたりはしない。高機能なロボットならなおさらだ。
妙案、破れたり。
すると、工場に一人の女の子が近付いてきた。
「エリック先輩、いますか?」
彼女は大きめの包みを持って、キョロキョロと周りを見ていた。アイズの制服を着た、小柄な少女。
「おお、ミミ。どうした?」
エリックはミミの元へ行って、包みを受け取った。
「これ、うちの野菜を使ったお菓子です。よかったらどうぞ。皆さんの分もありますから」
ミミの畑では栄養たっぷりの野菜が採れる。時折お菓子に加工して、配ったりもしているのだ。
「おっ、気が利くな。ありがとよ」
エリックは包みからお菓子を取り出して、頬張った。野菜をすり潰して、木の実の粉と一緒に混ぜて焼いたものである。砂糖をまぶしてあるので、程よい甘さが舌を撫で、美味だ。ヘルシーで美味しい、ミミの自信作である。
「うん、うめぇ。やる気が出てきたぜ」
お菓子の匂いに釣られて、他の従業員達も集まってきた。
「何々? 美味そうなもんがあるじゃんか」
「貰っていいの? やったー!」
「君可愛いねー。いくつ? この後遊びに行かない?」
お菓子を貰う人もいれば、どさくさに紛れてナンパする男もいた。ミミが反応に困っていると、エリックが言った。
「ミミに手を出すのはやめた方がいいぜ。毒殺されるぞ」
エリックの冗談を真に受けたナンパ男は、「ひいぃっ!」と恐怖の表情を浮かべ、後ろに下がった。
「ちょっとエリック先輩。誤解を生む冗談はやめてください」
ミミが目を細めてエリックを睨みつけると、エリックは楽しそうに笑って「悪りぃ悪りぃ」と答えた。
ミミはポーチから毒入り試験管を出して、ハキハキと主張した。
「わたしの毒は殺人用ではなく、敵の動きを鈍らせるためのものです。全身が麻痺する程度で、死にはしません。毒殺なんてしませんから」
ミミの周りにいた男達は、蜘蛛の子を散らすように逃げて言った。
工場に修理が一通り終わって、今日の仕事はお開きとなった。明日からはまた、商品の生産が始められそうだ。
「んじゃ、俺は帰るわ。……いや、やっぱアジトに行こう。そろそろクロム成分を補給しないと禁断症状が起こる」
「なんですかそれ。気持ち悪いですよ」
先輩に対して、容赦ない物言いである。だが女の子に罵倒されるのは嫌いじゃないしむしろ好きなので、エリックは気分が良かった。
「それだけ俺がクロムのことを愛してるってことだよ」
「わたしだってクロム隊長のことが好きですよ」
「え。ミミってそういう趣味だったのか」
「ち、違いますよ! 恋愛対象としてではなく、上司として尊敬してるって意味です」
「だよな。ユリーナじゃあるまいし」
夜空の下、アジトへと続く道を二人は歩いていた。
「クロム隊のメンバーで、クロムのことが嫌いな奴なんていねーよ」
「当然ですよ。みんな、クロムさんにお世話になってる身ですから」
「だな」
クロムが窮地に立たされれば、迷わず助ける。
それがクロム隊なのだ。




