第129話 「ノーラを探せ」
カインズの妹かもしれない人物を捜す。言うのは簡単だが、見つけるのは容易ではないだろう。分かっているのは『ノーラ・ハルバート』という名前と、年齢が12歳ということ、そして彼女が天才科学者だということだ。手がかりは少ない。だが、当然諦めるつもりはない。
エリックはパソコンを使い、ノーラに関するあらゆる情報を集めていた。なんでも、『インターネット』とかいうものを使えば世界中の情報を手に入れることができるらしい。便利なものだ。俺にはよく分からんが、エリックはインターネットを巧みに使いこなして情報を集めている。
カインズはラトニアの街を駆け巡り、聞き込みをしていた。足の速いカインズなら、効率よく情報収集できる。
ファティオは故郷の知り合いに電話をかけ、ノーラについて知っていることがないか尋ねていた。ルタ大陸出身のファティオなら、チェルド大陸では入手できない情報も得られるかもしれない。特にファティオの師匠……『銃王』は博識で聡明な人物だそうだから、ノーラについて何か知っている可能性が高い。
「とは言うものの……」
そう簡単にいかないのが現実。ノーラの名を知る人間は見つからなかった。ここまで調査して収穫無しとなると、ノーラが本当に有名な科学者だったのか怪しくなる。何だか雲を掴もうとしている気分だ。全くノーラの実態を掴める気がしない。
「こりゃ困難を極めるな。他の任務をする片手間でノーラを見つけた方がいいんじゃないか?」
エリックが提案する。
「確かにな。ガムシャラに探しても非効率的だ」
という訳で、俺達は他の任務も開始することにした。俺達が中央都市に行っていた間も、アイズに助けを求める人はいる。先日の台風で建物や畑が荒れてしまい、街は少々混乱している。すると火事場泥棒(台風場泥棒?)が増えたりしたのだ。それが原因で暴力事件などに発展して、今のラトニアはちょっと治安が悪いのだ。
よって、今日もアイズは奮闘中だ。
小さな喧嘩騒ぎを抑えた後、俺とミミはアジトのリビングで休憩していた。大した任務じゃなかったから、疲れてないがな。
「なんか、おじいちゃんから聞いた話を思い出しますね」
お茶を飲みながら、ミミが言った。
「どんな話だ?」
「50年前、『はじまりの日』を境に、世界中の治安が悪くなったのはご存知ですよね。多くの人が一斉に死んで、社会は大混乱に陥った。そして、生活が苦しくなった人々が犯罪に走ったんです。警察は滅んじゃって、毎日悲惨な事件があったと聞いています。ちょうど今みたいに、事件が多くなったんですって」
「でも当時ほどひどくないだろ、今は」
「そりゃ、そうですよ。だんだん世界は安定してきましたしね。昔は世界中が荒れていて……特にルタ大陸のルトゥギアの街なんか特に治安が悪くて。それが収まったかと思えば、今度は『イーヴィル・パーティー』が現れちゃって。当時は生きるのが大変だったそうです」
「彼らの努力と我慢のおかげで、今の俺達がいるんだ。感謝しないとな」
「……ですね。今となっては、おじいちゃんには感謝しています」
ミミはコップを片付けて、明るく微笑んだ。
「休憩は終わりましょうか。次の任務が待ってます。今度は、神父さんからの依頼ですよ」
「壊れた教会の修理を手伝うんだよな。よし、行くか」
俺達はアジトを出て、次なる仕事へ赴いた。
任務をこなして、仲間と話す、そんな日常。
この時はまだ、ありふれた日常が続くと思っていた。あれほどの非日常を体験しておきながら、自分には何気ない日々が存在していると信じていた。
心の底では気付いていたはずなんだ。当たり前にある日々は、当たり前のように崩れることを。窮地は唐突にやって来ることを。俺達の知らないところでも、世界は動いていることを。
運命はいつも平然と顔を覗かせるのだ。
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