第128話 「ヴィルカートスからの依頼」
中央都市から帰ってきた俺達を待っていたのは、ヴィルカートスからの依頼だった。テレビ電話越しに、ヴィルカートスの声が低く響く。
『アイズの諸君。カインズの妹を探して欲しい』
カインズの妹? レイティアのことか?
おかしいな。レイティアなら中央都市にいたはずだが。探して欲しいとはどういうことか。
「レイティアが行方不明になったのか?」
俺が聞くと、ヴィルカートスは首を横に振った。
『いや、レイティアはここにいる』
ヴィルカートスが横に視線を送る。すると、ヴィルカートスの背後に、ぴょこんと跳ねるようにレイティアが現れた。テレビ電話の画面に、ヴィルカートスとレイティアが映る。
『はい! 私はここにいます』
レイティアが自分の胸に手を当てて言った。
「じゃあ、何でレイティアを探せだなんて……」
『早とちりするなクロム。私は「カインズの妹を探せ」と言ったのだ』
その言葉が意味すること。それは……。
「カインズの妹はもう一人いるのか?」
ヴィルカートスは、もう一人の妹を探せと言ったのか。
しかし、カインズの妹はレイティアだけだと聞いていたが……。
「待って下さい、お父様。冗談が過ぎますよ。ボクの妹はレイティアただ一人。他に妹はいません。それとも、ボクが中央都市を離れていた間に、3人目の子供を授かったのですか?」
カインズが問うと、ヴィルカートスはまた首を横に振った。
『愚か者。もしそうなら、貴様が屋敷に戻った時に伝えている。家族の存在を隠したりするものか』
では、一体どういうことなのか。
『ノーラ・ハルバート。幼いながらも、数多の研究で功績を残し、この国の発展に大きく貢献した科学者だ。どうやら、彼女は私の3人目の娘らしい』
「『らしい』って……何故伝聞なんだ」
自分の娘の存在には、自信を持って欲しいものだが。もしかして、隠し子か? 今までその娘の存在を知らず、最近認知したとか。
『執念の手による破壊活動で、イマジンハートに保存されていたデータが大量に消去されてしまった。その復元作業を行っていた時、一昔前に消去されたデータも復元されたのだ。かつて中央都市にその人ありと言われた、天才科学者少女ノーラ。彼女についてのあらゆるデータが、人為的に削除されていたと判明した。そのデータを確認したところ、ノーラは私の娘で、カインズとレイティアの妹だそうだ』
「おかしいですね。ノーラという名前の科学者は聞いたことがありません。その人ありと言われた程の科学者なら、ボクの耳にも彼女の話題が入ってくると思うのですが」
カインズは顎に手を当て、思案顔で聞いた。
『ああ。私もノーラという名前には聞き覚えが無い。勿論、メイリー以外の女と関係を結んだ記憶も無い。私の子は、カインズとレイティアだけのはずだ。従ってそのデータは眉唾ものに思えるが……不可解な点も多い』
「と、言いますと?」
『中央都市の発明品の多くは、開発者が不明なのだ。お前の腕を治した医療技術や、イマジンハートのセキュリティーシステムなど……。誰が作ったのか分からない。だが、もしもそれらの開発者がノーラだとしたら、辻褄が合う。開発者ノーラの名前は、何者かによって隠されたのかもしれない』
天才科学者の過去が、隠蔽されたと?
「しかし、いくらデータを削除したところで、人々の記憶は消えません。やはり、ノーラ・ハルバートなる人物は実在しないのでは?」
『中央都市の脳科学者に尋ねたところ、人間の記憶を操作する技術が確立されつつあるらしい。まだ未完成の技術だが、ノーラがそれを完成させ、我々に対して使っていたとしたら?』
「……記録からも、記憶からも、ノーラの存在は消える」
『そうだ。彼女はいなかったことにされる。我々は、ノーラを……家族を忘れてしまったのだろう』
「突拍子も無い仮説ですね」
俺もそう思う。カインズもレイティアもヴィルカートスも、みんな家族のことを忘れてしまったなんて。ありえない。
『そうでも無い。メイリーは息絶える寸前、お前とレイティアに加え、ノーラの名を呼んだ。メイリーはブラッドドラゴンの攻撃のショックで、失われていた記憶が戻ったのかもしれん』
ヴィルカートスの目には、確信の意思が宿っていた。
『ノーラ・ハルバートは存在する。私は、そう確信している。ならば、家族として、父親として、責任を取らねばならない。彼女のことを思い出し、ハルバート家の娘として、屋敷に迎えてやらねばならない。だから、お前達に頼みたい。ノーラを探してくれ。ノーラがどこにいるかは皆目見当がつかない上に、彼女の顔も分からない。無茶な頼みなのは重々承知だ。だが、その上でお前達に依頼する』
画面の中のヴィルカートスが、腰を曲げ、頭を下げた。
『私の娘に会わせてくれ』
上級貴族の頭が軽くないことくらい、俺にも分かる。ヴィルカートスが頭を下げるということの意味は、理解していた。
それほど、彼は本気で頼んでいるのだ。
一瞬の沈黙に包まれたこの場で、俺が出す答えは決まっていた。
「了解した」
断るはずは無かった。家族に会いたい気持ちに、真剣に答えないはずがない。
「俺達が必ず、見つけ出す」
助けを求める人のために、俺達アイズは存在しているのだから。
『協力に感謝する』
頭を上げたヴィルカートスは、最後にこう付け加えた。
『当然、ハルバート家もノーラの捜索に全力を注ぐ。お前達だけに捜索を押し付けるつもりはない。故に、何かあった時は我々に頼ってくれて構わない』
「心強いな。ありがとう」
ヴィルカートスは通信を切った。テレビ電話の画面が真っ暗になる。
「聞いた通りだ。俺達クロム隊は、これよりカインズの妹……ノーラ・ハルバートを探す。手がかりは極めて少ないが、何としても見つけ出すぞ」
俺が言うと、クロム隊の皆は頷いた。存在するかも分からない人物の捜索。簡単な任務ではないだろう。だが、俺達を頼る人がいるなら、俺達は全力で助ける。
俺達はアイズだから。




