↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶え損ないの人類共  作者: くまけん
第一章 チェルド大陸編
132/1030

第126話 「中央都市からの帰還」

 中央都市での一件が落ち着いてきたので、俺達クロム隊はラトニアに帰還することになった。もちろん、カインズも一緒だ。今度は家出などではなく、家族に認められての出発となる。レイティアは中央都市に残るそうだ。家での仕事の他に、衛生団としての仕事も山積みらしい。レイティアは「兄上をよろしくお願いします」と言って見送ってくれた。

 俺達は中央都市の壁の外に出て、エリックの車に乗った。後ろの座席には、袋詰めにされた大きな機械が乗せられている。

「エリック。あの機械は何だ?」

「カインズの親父さんに渡されたんだよ。アジトに置けってさ」

 俺達のアジトに置くのか。一体何だ? 変な物じゃないといいんだが。


 エリックのが運転する車に乗って、俺達はラトニアの街に戻ってきた。先日の台風の影響か、所々に壊れた建物が見える。でも、それ以外は何の変化も無い、見慣れた風景だった。もうすっかり夕方だ。この時間帯のラトニアは、とても静かである。

「うーん、やっぱりラトニアの雰囲気は落ち着きますね。ボクにとって、ここは第二の故郷ですよ」

 カインズは深呼吸をした。中央都市の空調に管理された空気より、自然が作り出した空気が好みらしい。

「クロム隊長。わたし、畑の様子を見に行ってもいいですか」

 ミミが挙手して聞いた。

「ああ。行ってこい」

 台風のせいで畑が吹き飛ばされているかもしれないからな。真っ先に畑の心配をするところが、ミミらしい。ミミはさっさと畑の方に走っていった。

「あー、俺も工場の様子見に行っていいか? 部品が吹っ飛ばされてるかもしれねーし」

「そうか。見に行ってもいいぞ」

 エリックは工場に向かった。エリックは工場の心配か。

「ボクはサーカス団のみんなに挨拶に行ってきます。一度お別れを言いましたが、やっぱり戻って来れたと報告に」

「お前もか。よし、行ってこい」

 カインズは目にも止まらぬ速さで走っていった。皆、仕事を大事にしているんだな。

「じゃあ、僕は家族に会いに行きますね」

 ファティオは自宅に帰っていった。あいつは家族を何よりも大事に思っているからな。予定より長い期間家を空けたんだし、早く帰ってやらないとな。

「私達はアジトに戻りましょうか」

 ユリーナと俺は、アジトに帰った。アジトは俺達の自宅みたいなものだからな。

 久し振りに帰ったアジトは、埃が溜まって汚かった。毎日の掃除がいかに大切かを思い知らされる。

「うへー。掃除しなきゃですね。ご飯の時間はまだですし、ここは私が働きましょう!」

 ユリーナは部屋の様子を見ると、率先して掃除に取りかかってくれた。ユリーナはアジトの家事をしっかりやってくれる。アイズに入団したばかりの頃は洗濯機すらまともに使えなかったユリーナが、今ではテキパキと仕事をこなしている。アジトの管理者補佐として、真面目に働いてくれている。

 だが、ユリーナの仕事っぷりには焦燥のようなものを感じるのだ。「働かなくきゃ」「役に立たなきゃ」「しっかりしなきゃ」といった焦りが見える。その意識は悪いことではないが、自分を追い込んで無理していないか心配だ。努力や熱心さは大事だが、自我に突き動かされて自分を追い詰め過ぎると、ろくな結果にならない。

「ユリーナ」

 俺が声をかけると、ユリーナは振り返って尋ねた。

「何ですか?」

「お前はよく頑張っている」

 脈絡の無い発言に、少しきょとんとした様子のユリーナ。

「え? ……あ、ありがとうございます」

「中央都市での避難誘導で、多くの人がお前に助けられた。アイズとして、立派な功績だ。それだけじゃない。お前は最近、よく頑張ってくれている。人の役に立つように、懸命に働いてくれているな」

「わわっ! クロムさんに誉められました! やったぁ!」

 ユリーナは顔を綻ばせて喜んだ。

 俺は続けた。

「だがな。お前は何のために頑張っている?」

「え?」

 ユリーナは戸惑いを見せつつも、答えを述べた。

「クロムさんに認められたい……。皆の足を引っ張りたくないからです」

「そうか。なら、無理はしなくていい。俺はお前を認めている。俺だけじゃなく、この隊の皆も、だ」

「無理なんてしてませんよ。それに、他の皆は敵を倒したり、凄い知識を持っていたりするじゃないですか。私には何も無いんです。だから、皆よりも頑張らないと」

「それがよくないと言っているんだ。お前には何も無い? 違う。お前はアイズに必要なものを持っている。その献身の精神だけで十分だ。必要以上に頑張らなくていいんだよ」

「嘘です! クロムさんだって、心の奥では私のことを役立たずって思ってます!」

 ユリーナは叫んだ。彼女の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。

 ユリーナは、自分の存在意義について悩んでいたのだろう。その感情は理解出来るし、共感出来る。

 俺も昔はそうだった。

「嘘じゃない。嘘を見破った気になるなんて、百年早いぞ」

 アイズ流護身術を極めれば、他人の嘘を見破ったり出来る。だが、お前には出来ないだろ? 人の発言を、素直に受け止めていいんだよ。人の言葉をいちいち疑うような、俺みたいな人間にならなくていい。

「お前はクロム隊のユリーナだ。堂々とここにいろ。自信を持て。お前は、役立たずなんかじゃない」

 静寂が場を支配した。ゆっくり、ゆっくりと、ユリーナの目元に涙が溜まる。ユリーナは泣き顔になって、俺の胸に飛び込んだ。

「いいんですか……? 私、クロムさんの側にいていいんですか?」

「ああ。何も恥じるな。お前は俺達の仲間だからな」

 ユリーナはずっと俺の胸に顔を埋めて泣いた。ユリーナが俺達にどれだけ認めて欲しかったのか、よく分かった気がする。

 ユリーナは俺に似ているんだ。俺も自分に自信が無かった。アイズに入った時も、センと戦った時も。その度に、俺の側には誰かがいた。不安や劣等感を取り払ってくれる存在が。

 俺が、ユリーナにとっての『そういう存在』になってあげたい。


 結局、掃除は後回しになり、今夜は夕食を食べて寝た。

 一緒のベッドで寝ようとユリーナに誘われたが、流石に断っておいた。側にいていいとは言ったが、禁断の関係になるつもりはない。


 翌朝。

 アジトにクロム隊のメンバーが集まった。タンスの上に、エリックが持ってきた機械が置かれている。ヴィルカートスが「アジトに置け」と指示したものだ。そこそこ大きな四角形の板に、それを支える土台がくっついている。全体的に黒っぽい色をしていて、板には画面が付いていた。

 これは、テレビだな。遠くから送られてきた映像情報を表示する機械。何故ヴィルカートスがこれを置けと言ったのか。その答えは、すぐに明らかとなった。


『アイズの諸君。聞こえているか』


 画面に映るヴィルカートスが、低い声で言った。エリック曰く、これは『テレビ電話』という機能で、遠くにいる人と会話が出来るらしい。電話の映像付きバージョンといったところか。便利だな。中央都市の最新機械かと思ったが、ラトニアでも数年前に発売していたらしい。知らなかった。便利なものは知らぬ間に現れているものだ。

 今、ラトニアにいる俺達は中央都市にいるヴィルカートスと会話をしている。何故こんな機械を渡したのかと聞くと、「貴様らと連絡が取れれば都合がいい」と答えた。要するに、息子の様子が気になるのだろう。親バカというべきか、過保護というべきか。まぁ、家出して5年間も行方不明だった息子を、心配するのは当然か。またカインズが行方を暗ますかもしれないしな。

『本題といこうか』

 ヴィルカートスは真面目な顔で、言葉を発した。


『貴様らにやってもらいたい任務がある』


              *   *   *


 第一章 チェルド大陸編 完結!


                 第二章 ルタ大陸編に続く……!


************************************


○お知らせ

 1月9日から長期間、連載をお休みします。

 連載再開時期は未定ですが、早ければ3月下旬、遅ければ5月上旬になると思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。