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絶え損ないの人類共  作者: くまけん
第一章 チェルド大陸編
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第123話 「感謝を込めて」

 朗報が二つある。


 一つは、ハルバート屋敷の修繕が終わったことだ。歴史を感じる風情ある建物……にはならなかったが、新築の綺麗なお屋敷となった。二週間もかけたのだから、立派な出来である。十分、よそに誇れるお屋敷だろう。

 あの事件から大分時が経ったので、街の景観も元に戻ってきた。街は落ち着きを取り戻し、奪われたものが返ってきたと言えよう。

 命以外は。


 二つ目の朗報は、ミミの退院だ。『執念の手』のベシム・トクシックとの戦いで重傷を負ったミミだったが、一週間前に退院した。途中から、屋敷の修繕を手伝っている。

 病院から戻ってきたミミは、私服姿だった。制服は戦いの時に溶けてしまったらしい。

「退院おめでとう」

「ありがとうございます、クロム隊長」

 病院に搬送された時は皮膚が爛れていたらしいが、今では面影も無い。

「聞いたぞ。ドーピングを使って体を傷めたらしいな。『黒の毒』だったか。お前が名付けた通り、あれは毒だ。あんなもので強さを得たって仕方がない。二度とあれを使うなよ」

「……分かりました。もう使いません」

 抑揚の無い口調で頷くミミ。俺の指示が不服なのかもしれない。

 確かにあのドーピングが無ければ、ミミは殺されていたかもしれない。『黒の毒』の重要性は理解しているつもりだ。でも、その毒がミミの体を傷つけるのなら、もう使って欲しくない。

「あの毒は、体がおかしくなっちゃいますから。嫌なことも思い出しちゃいましたし」

「嫌なこと……お前の故郷のことか?」

「……はい」

 ミミの故郷。チェルド大陸のお隣にあるルタ大陸……そこの『ポロクロロ』という街に、ミミの生まれ故郷の村がある。農業が盛んな地域として有名だ。

 そして……ミミはあの村から逃げてきた。あの村は、ミミに対して理不尽すぎた。

「嫌な思い出だらけの故郷ですけど、久し振りに帰省するのもいいかもしれません。カインズ先輩みたいに、わたしも故郷のいざこざと向き合わなければならないと思います」

「ミミも里帰りか。一人が不安だったら俺がついて行こうか?」

 決して冗談で言った訳ではないし、軽い気持ちで言った訳でもなかった。

 あの村にミミ一人で帰らせるのは、かなり不安だ。

「……そうですね。帰る決心が付いたら、その時にお願いします」

 ミミの顔は真剣そのものだった。


 俺達がハルバート屋敷で休んでいると、ティアナ姫がやって来た。いや、今はもう姫じゃなくて女王か。この前カインズと一緒に王宮へ赴いた時に、女王になることが決まったという。

「アイズの皆様。お話があります」

 そう言って、ティアナ女王は俺達を呼んだ。すぐさま、クロム隊のメンバーがティアナ女王の元に集まった。

「中央都市を襲った大量殺人事件において、皆様のご活躍は計り知れないものでした。皆様が『執念の手』と名乗るテロリストを撃退して下さらなかったら、チェルダード王国は存亡の危機に陥っていたでしょう。就きましては、王国を代表して、このティアナが、皆様に感謝を表明したいと存じます」

 ティアナ女王は深々と礼をした。相変わらず、優雅な所作だ。

「特にユリーナ様。貴女の避難誘導に助けられたと、多くの国民が感謝しております」

「えっ! 私ですか!?」

 突然名指しされたので、驚いた様子のユリーナ。

「ええ。少なく見積もっても、8千人の国民が貴女に助けられたのではないでしょうか」

「そんなにですか! すごい! 私ってすごい!」

 ユリーナはぴょんぴょんと飛び跳ねて喜んだ。ユリーナが避難誘導をしていたという話は聞いている。本人曰く、「あの時は無我夢中でした。五十回くらいは誘導を繰り返したと思いますよ」とのことだった。一回の避難誘導で160人を導いたと考えると、計算が合うな。凄い人数だが、なんたって中央都市は人口密度が凄まじいからな。むしろ少ないくらいだろう。

「警視総監からの提案ですが、感謝の気持ちを込めて、アイズの皆様に何かをお渡ししようと思います」

 アイズは報酬目的で活動していないんだがな。ティアナ女王が言うなら、ありがたく受け取っておこう。何がいいだろうか。

「例えば、金とか?」

「金とか」

 即答だった。お金でもいいのか。

「じゃあ、アイズの本部に寄付をお願いします」

「アイズの本部に、ですか? 皆様個人にではなく」

「はい。アイズは非営利組織なので、慢性的な資金不足なんですよ。俺達は特に何もいらないので。……お前達も、それでいいか?」

 俺が確認を取ると、全員が頷いた。

「ボクは腕を治してもらいましたし、十分ですよ」

 カインズは右手を上げた。

「分かりました。では、アイズ本部に5000万ヴァルエの寄付をしますね」

「流石に多すぎじゃないですか」

 ツッコミを入れたのはカインズである。5000万ヴァルエもあれば、立派な家が買えるぞ。ティアナ女王は澄ました顔で、「恩人のいる組織なのですから、妥当な額です」と答えた。


 それにしても、懐かしい単語を聞いたな。

 警視総監、か。

 『はじまりの日』以降、急速に権力と信頼を失った、警察という組織。そのお偉いさんが警視総監だ。階級の詳しいことは知らないが、『はじまりの日』より前は相当な権力者だったはずだ。

 その警視総監が、今、何故ティアナ女王に提案したのだろう。現在の警視総監なんて、お飾りみたいな存在なのに。国のトップに意見する力があったのだろうか。

 ……まぁ、どうでもいいことか。


 俺達は、王宮に帰るティアナ女王を見送り、ハルバート屋敷に戻った。


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