第108話 「激痛の凌辱」
ベシムが飲んだ錠剤は痛み止めだ。今年で66歳になるベシムは、体の節々に痛みが現れていた。激しい動きは出来ない。
だが、痛みが無くなったら……痛覚というブレーキが無くなったら、話は別だ。
「肉弾戦がお望みなら、そうしてあげましょうぞ!」
ベシムは大きな一歩を踏み、ミミに近付いた。ミミは咄嗟に防御姿勢を取るが、ベシムの拳を受け流すことが出来なかった。ベシムの右腕がミミの肩に打撃を与える。強く押されたミミは、ビルの壁に激突してしまった。
「痛っ……!」
激しい衝撃だった。老人の出せるパワーじゃない。
ミミが痛みに苦しんでいる間に、ベシムの蹴りが続け様に放たれる。
「お返しデス」
そしてベシムがミミの腹を殴り、ミミは短く唸って倒れた。
「あうぅっ……」
ミミの口から涎が垂れる。息が乱れ始める。
反撃に転じようとポーチに手をかけたが、ベシムに腕を蹴られ、阻止された。
「毒は使わせませんぞ」
ベシムは高齢だが、『執念の手』の一員だ。近接戦闘においても、他者を殺す技術を持っている。毒薬だけが武器ではないのだ。
攻撃の度に体が痛むが、これは年齢だけが原因ではない。ベシムは自身の体を使って、毒物の人体実験を行っていた。その影響で、ベシムの筋肉や内臓はボロボロだ。臓器が変色し、劣化していく中で、ベシムは快感と幸福を抱いていた。毒を体内に入れ、毒と共に生きる喜び。それを顧みれば、健康への悪影響など大したことではない。
ベシムは倒れるミミに対して、先程とは別の麻痺毒を使った。この麻痺毒は効果時間が長いが、触覚が敏感になるという副作用がある。刺激に対する快感も高まるが、同時に痛覚も高まる。
「また動きを封じられましたね。どうやら、ミミ殿は未熟者のようだ。拙者の攻撃すら対処出来ずに、こうやって肉体をいたぶられるのデスからな」
ミミは歯を食い縛ることくらいしか出来なかった。ベシムの言う通り、ミミの『アイズ流護身術』は未熟だ。本来の『アイズ流護身術』は、無駄の無い動きで敵を追い詰め、敵の攻撃を利用し、素早く勝利を掴む戦闘技術だ。クロムやロマノのような強者は、『アイズ流護身術』を上手く使いこなして敵を圧倒出来る。だが、ミミの動きにはまだまだ無駄があるし、敵の攻撃を回避しきれていない。
地面に仰向けで倒れるミミ。その腹に足を乗せ、フラスコを構えるベシム。
おどろおどろしく光る液体を見て、ミミはこれから感じるであろう痛みに恐怖した。だが、抵抗は出来ない。プルプルと小さく体を揺らすことしか出来なかった。
「ミミ殿はもうお分かりでしょう。これは強酸デス。当然、服や皮膚を溶かす猛毒デスぞ」
今、足元にいる少女が毒に犯されようとしている! 毒の苦しみを味わおうとしている! 為す術無く、理不尽に!
ベシムは、恍惚の表情を浮かべ、勿体振るように、恐怖を与えるように、ゆっくりゆっくりと、フラスコを傾かせ、液体を滴らせ、そして、強酸をミミの右腕に落とした。
酸がミミの制服を瞬く間に溶かし、白くて張りのある肌を焼いた。
「うっ、うあああああああああああああああああああ!」
麻痺毒によって増強された痛みが、全身を走り抜ける。強酸は皮膚を溶かし、肉を溶かし、神経を撫でた。若くて可愛らしい肌が、赤くて痛々しい風貌に変化していく。無慈悲な化学反応が、肉体を無理矢理に凌辱していく。
体が上手く動かないミミだが、絶叫をあげることは許されていた。ミミの頭から理性は消え行き、痛みと恐怖のみが支配していた。
「ハァ……ハァ……痛い……痛いよ……」
弱々しい涙声を振り絞った。乱れた息が、辛さを増幅させる。
この毒の恐ろしいところは、肉体を溶かす速さがゆっくりなことだ。一秒でも長く、苦しみと絶望を味わわせるための毒。ミミの皮膚と筋肉は少ししか溶けていなかったが、それでも想像を絶する激痛だった。
「ブフォフォフォ。簡単には死なせませんぞ。このまま、じっくりとドロドロに溶かしてあげましょう」
ベシムは次々と強酸の滴を落とした。ミミの服はどんどん溶け、ミミの皮膚はどんどん焼けていく。ついに、両腕と腹部の制服は、後ろ半分を残して全部溶けてしまった。残った胸元の制服の陰から、白い下着がちらりと垣間見えた。
毒を浴びる度にミミは叫び声をあげ、体を小さく揺らした。
「こうして見ると、やはり人体も物体なのデスなぁ」
ベシムは呑気に感想を述べながら、毒を落としていく。
「さてさて。そろそろ下半身もいたぶってみますぞ。大事な臓器が壊れてしまうかもしれませんなぁ」
ベシムがミミのスカートの上に強酸を落とそうとした時、ミミの右手が微かに動いた。ミミは力を振り絞り、ポーチに手を入れ、中身を取り出した。
ミミの切り札、黒の毒。割れにくい試験管に入ったドス黒い液体が、ミミの手の震えに合わせて震動する。
これを……使えば……。
絶体絶命のミミに残された、最後の手段。
それをミミが掴むのを、ベシムは見逃さなかった。
「おやおや。そうはいきませんぞ」
ベシムはミミの手から黒の毒を引ったくり、中身を観察した。
「あ……」
ミミの小さな声が、雨の音に埋もれた。
「拙者にこの毒を食らわせるつもりだったのデスか? 残念デスね。見たことのない毒デスが、この状況で使おうとするということは、強力な毒薬なのでしょう」
その通りだった。黒の毒はミミが独自に開発した、最新の毒薬。その効果は、とても強力だ。
「そうデス。いいことを思い付きました。自分の毒にやられて死ぬ、なんていかがデスかな。拙者の毒に殺されるより、さらに屈辱的でしょう」
ベシムは口元を歪ませて、提案した。
「拙者は自分の毒で死ねるのなら本望なんデスがね。多くの毒使いは自分の毒で死ぬのを嫌がるんデスよ。拙者が今まで会った方々もそうでした」
ベシムはミミの頭を掴み、ミミの口に試験管を挿入した。そして、試験管を傾かせ、黒の毒を勢いよく流し込む。黒い液体がミミの喉を流れ、体内に吸収されていった。
ミミは抵抗すら出来ず、毒を食らうのを、ただ受け入れるだけだった。虚ろな半開きの目で宙を見ている。口元から黒の毒がはみ出て、まるで涎のようだった。
「さて、どんな現象が起こるのデス?」
ベシムは未知なる毒薬の効果に、わくわくしていた。
ミミの体が痙攣を始め、身悶えるように動き始める。ミミの息が、一層乱れた。ミミの顔がみるみる紅潮していく。
黒の毒の効能が働き出した。




