第106話 「空が開いていく」
『イマジンハート』を作った人物からメールが届いた。信用出来るかは疑問が残るが、今は藁にもすがる思いだ。エリックはメールの内容を確認し、返信を送った。
『協力って、何をしてくれるんだ?』
どこにいるかも分からない相手が、一体どんな協力をしてくれるのかと思ったら、意外な回答が返ってきた。
『ワタシがイマジンハートにハッキングし、必要なデータを貴方にお渡しします。』
エリックはその文面を二度読んで、訝しむような驚くような声を出した。
「『イマジンハート』にハッキング? そんなん可能なのかよ」
それが可能な人物は、それこそ『イマジンハート』の製作者くらいだろう。
エリックの疑問に答えるかのように、ディスプレイに大量のデータが表示された。画面を埋め尽くす程の文字の集まり。まさしく、エリックが求めていたものだった。
「マジでハッキングしたのかよコイツ……。まだ一分も経ってねーぞ」
ほんの数十秒で、『イマジンハート』をハッキングし、『イマジンハートの送信者権限』を奪い去った。認めるしかない。メールの送信者は、『イマジンハート』の生みの親だ。
『お役に立てたでしょうか?』
エリックに届いたメール。文面から自信が溢れている。
「役に立ったなんてもんじゃねーよ……。おかげで予定の10分の1の時間で終わったぜ!」
画面の向こう側に世界レベルのハッカーがいる……そのことに感動を覚えながら、エリックはキーボードを叩いた。
「ありがとな! 名前も知らないハッカーさん! 是非とも直接、ありがとうを言いたいぜ!」
エリックも、まさか『イマジンハート』の母が12歳の少女だとは思っていまい。ましてや、『イーヴィル・パーティー』の参謀だとは少しも想像していないだろう。
エリックは補佐パソコンに『イマジンハートの送信者権限』を持たせる。これにより、エリックの眼前にあるパソコンは、中央都市のあらゆる機械に命令を送ることが出来るようになった。
中央都市のシステムを支配下に置いたも同然である。
「エリックさーん。私、ちょっと外に行ってきますね! 頼まれた物はここに置いておきますからー!」
倉庫から帰ってきたユリーナが、修理道具を床に置いて去っていった。だが、エリックはそれどころじゃない。第一目標を達成した喜びを感じ、興奮していた。
「待たせたな皆。爆弾に怯える時間は終了だぜ」
エリックは真っ先に、中央都市のガラス天井に指令を送った。ガラス天井は、中央都市の上空を覆う巨大なガラスの板だ。中央都市の外側から見れば、巨大な六角柱の蓋のように見えるだろう。とても頑丈で、『イマジンハート』の命令以外ではびくともしない。ガラス天井のおかげで、中央都市の住民は、外の天気に関係なく晴れた空を感じることが出来る。言うなれば、ガラス天井は街の傘なのだ。
今日も中央都市は『晴れ』だった。温かく、程よく乾燥して、風の無い気候だった。ガラス天井が映し出す映像は、見るだけで気分が良くなるような、心地よい晴天の空だ。
だが、中央都市の外は違った。都会の住民が快適な天気を味わっている頃、六角柱の外側では、人々は自然の猛威に耐えていた。
「ちょっと荒療治だが、我慢してくれよ!」
エリックがパソコンの操作を終える。パソコンからガラス天井のコンピューターに指令が届き、ガラス天井は動き始めた。
六角形のガラス天井が六つの三角形に分かれ、機械音と共に後退していく。三角形のガラス板達はどんどん中央から離れ、中央都市の天井に穴が空いた。ガラス板達は六角柱の側面に張り付くように移動していく。
その日、中央都市に初めて雨が降った。
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