第105話 「黒光りする太い棒」
日用品や機械部品などが箱詰めされ、大きな棚に収容されている。ここは『イマジンハート』のビルの大型倉庫。ユリーナはそこで、エリックが頼んだ品物を探していた。
しかし、勝手に持ち出しては泥棒になってしまわないだろうか。所謂、火事場泥棒というやつだ。
「盗んでませんよー。ちょっとお借りするだけですよー」
誰もいない室内で、ユリーナは呟いた。
「それにしても、色んな物がありますねー」
いざという時のために蓄えられた備品だったが、いざという時に役立っていない。宝の持ち腐れになるくらいなら、使ってしまった方がいいだろう。
「これかな? エリックさんが言ってたの」
ユリーナの手元には、『修理器具』と書かれた箱があった。多少重いが、ユリーナが運べない重さじゃない。
「よっこらしょ……ん?」
ユリーナが箱を持ち上げると、箱に隠されていた何かが、ゴロリと転がってきた。
「何だろ、これ」
ユリーナは箱を近くに置いて、転がった物体を拾い上げた。それは無機質な棒状の物体で、黒を基調とした色合いをしていた。手で握ると、ピッタリ吸い付くような太さだ。結構固くて、簡単には壊れなさそうだ。長さは15センチメートルくらい。先端部分に、目玉くらいの大きさの球体がくっついていた。
長くて、固くて、太くて、黒くて、先端が盛り上がっている棒。それをユリーナは握り締めていた。
「こんなの、見たことない……。何に使う物なんだろ?」
それの表面をよく見たところ、どうやらこれは『マイク』という機械らしい。近くの音量を増幅する機能があるようだ。
「へー。よく分からないけどすごーい」
何でこんなものが落ちていたのかと疑問に思ったが、すぐに解決した。足元にあった袋が破けている。そこから溢れたようだ。
「これがスイッチかな? えいっ」
ユリーナはマイクのスイッチを押してみた。特段変わった様子は無い。
「あれ? 何にも起きな……ってうええええええええ!?」
ユリーナは驚きの声をあげつつ、その声でまた驚いた。自分の声が大きく聞こえる。普段から声は大きな方だが、マイクを通じて喋った声はさらに大きかった。遠くにいる人間にも声が届くくらいに。
「うわあああああ凄おおおおおいいいいい」
ユリーナは面白がって、無意味に喋り始めた。その姿は、珍しい玩具に喜ぶ子供そのものだった。
「あーあー。うーうー。クロムさん大好きいいいいい」
でも、子供のようにすぐ飽きてしまった。ユリーナははしゃぎ過ぎた自分が恥ずかしくなり、赤面してマイクを机に置いた。
そして、ふと、手を止める。
この機械、何かに役立つんじゃないか。
ユリーナの頭の中に、中央都市の人々の姿が浮かんだ。情報が無くて困る人々。安全を求めて逃げる人々。
「そうだ」
一つ、妙案が見つかった。
「私にも出来ることが、あるかもしれない」
ユリーナは箱とマイクを持って、倉庫を出た。自信を胸に、エリックの元へ戻る。
素早く、力強い足取りで。
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