第104話 「エリックとシエル」
『イマジンハート』の近くに設置されていたパソコンは、どうやら無傷らしい。しかも『イマジンハート』が無くても動くので、お誂え向きだ。無数のディスプレイに囲まれて、エリックはパソコンを操作していた。このパソコンは『イマジンハート』の補佐役を務めている。
「まずは被害の進行を止めたいところだな」
街では頻繁に爆発が起きている。その上、火事まで発生する有り様だ。この現状を少しでも抑えたい。それも、いち早く、効率的に。
「多分あると思うんだが……」
カタカタとキーボードを打つ音が鳴る。エリックが探していたのは、『イマジンハート』を動かすプログラムだった。その内、都市の機械に命令を下すプログラムが発見出来れば、希望は見えてくる。
必要な情報を得るため、エリックはハッキングを開始した。『イマジンハート』の補佐をハッキングするのは容易ではなかったが、エリックにとっては不可能なことではない。
「……あった! これだろ!」
ディスプレイに、夥しい量の文字が羅列される。これこそが、エリックの探していたプログラムだった。一般人には理解出来ない内容だが、エリックはすぐに読み取れた。
「へへっ、ちょっと書き換えさせてもらうぜ」
エリックはプログラムを改竄しようと試みたが、アカウント所持者じゃないとプログラムの書き換えは出来ないらしい。ディスプレイに、警告メッセージが表示される。
「ま、当たり前だな」
誰もがプログラムを変えられるようではまずい。このくらいのセキュリティは当然だろう。エリックはアカウント作成画面に移り、パスポートの情報と、咄嗟に思い付いた数字を打ち込んだ。これがエリックのパスワードになる。ちなみに、パスワードの数字は『676569』になった。
『イマジンハートに接続出来ません。このアカウントは再度の使用は不可能です。』という警告文が表示された。『イマジンハート』が無いと、アカウントは使い捨てになる。だが、エリックにとってはどうでもいいことだった。今使えるならそれでいい。
エリックは件のプログラムに侵入し、中身を改造した。計画の第一段階終了。次は、『イマジンハート』の代用品を作る。
このパソコンにも、情報を出力する機能は付いていた。つまり、このパソコンに『イマジンハート』と同等の権限を与えれば……中央都市の機械に命令を送ることが出来る。
今から、第二の『イマジンハート』を作るのだ。
その時、異変が起きた。エリックを取り囲むディスプレイ達が、一斉にとある画面を表示させたのだ。
「うおっ!? 何が起きた!」
エリックが確認すると、それがメール画面だと分かった。どこかからメールが送られてきたらしい。
このタイミングで来たメールが、無関係には思えなかった。エリックはすかさずメールを開く。
差出人不明のそのメールには、こう書かれていた。
『こんにちは。ワタシはイマジンハートを作った者です。協力して、イマジンハートを修復しましょう。』
* * *
「どういうこと?」
シエルは一抹の不安を抱いていた。先程からオーディンと連絡が取れない。無線通信機でお互いに情報を送っていたのだが、通信が途絶えてしまったのだ。
『イーヴィル・パーティー』のアジトにて、シエルは複数のパソコンを同時に操作した。状況を探ったところ、どうやら電波が遮断されたようだ。シエルとオーディンの通信は、『イマジンハート』を通じて行われている。シエルが外部から『イマジンハート』をハッキングし、通信が自由に出来るようにしたのだ。国家の心臓とも言える『イマジンハート』を悪事に利用しているが、シエルは気にしない。シエルは『イマジンハート』の製作者であるし、そもそも彼女は『イーヴィル・パーティー』のメンバーだ。悪事を恥じる精神は持ち合わせていない。
「何で……?」
シエルは真っ先に、何者かによるサイバー攻撃の可能性を考えた。『イーヴィル・パーティー』の悪事を邪魔するため、通信を妨害した可能性だ。確かに『イーヴィル・パーティー』には敵が多いが、シエルの通信を易々と妨害出来る人間がいるとは思えない。シエルのサイバー技術は一流だ。彼女に匹敵する人材は、世界に数える程しかいない。
シエルは次の可能性を考えた。『イマジンハート』に不具合が起きたのかもしれない。調べてみると、その通りだった。ある時刻……オーディン達が中央都市に侵入してしばらく経った後に、『イマジンハート』からの電波が途切れている。システムが破壊されたのか。
「まさか……」
その時間帯は、シエルが中央都市のセキュリティシステムを無力化していた頃だった。その時ならば、簡単に『イマジンハート』に近付ける。物理的に『イマジンハート』が破壊された可能性が高い。
例えば、よく斬れる剣でバラバラにされたり。
「『イマジンハート』が壊された……?」
自分のせいでオーディン達の仕事の邪魔をしたかもしれない。シエルの頭に不安が過った。下唇を噛み、「ワタシとしたことが、失敗だ……」と呟いた。
中央都市の皆に迷惑がかかるかも、とは考えなかった。シエルはあの街を捨てた。今さら住民達がどうなろうと、知ったことじゃない。そこに住む家族も含めて、どうでもいい存在だった。
だが、このまま『イマジンハート』が壊れたままなのは困る。プログラムのバグならシエルが数分で直せるが、『イマジンハート』の本体が壊されたのでは手も足も出ない。誰か、代わりに直してくれないだろうか。
数十分後、新たな情報を得た。誰かが『イマジンハート』の付属コンピューターをハッキングしている。そして、アカウントを製作していた。
「誰?」
付属コンピューターとは言え、『イマジンハート』並の性能のコンピューターをハッキングする人物。相当高度な技術者だ。
シエルは、アカウントの情報をハッキングで入手した。
「エリック・ドール……。18歳……。アイズの隊員……!?」
意外な人物だった。『イーヴィル・パーティー』にとっては敵である。でも、今は役に立つ協力者だ。如何なる理由で『イマジンハート』の近くにいたのかは知らないが、利用しない手は無い。
早速シエルはメールを打ち、補佐用パソコンに送った。
『こんにちは。ワタシはイマジンハートを作った者です。協力して、イマジンハートを修復しましょう。』
* * *




