第101話 「血の覚悟」
その言葉は心の底から放たれたような、根強い意思を感じさせた。絶対に殺してやるという『執念』……。それが『手』を伸ばして、俺達の首を掴もうと迫ってくるような……そんな感覚を覚えた。
俺達人類は、50年前の『はじまりの日』に絶え損なった……?
「そもそも、何で『はじまりの日』って言うか知ってるか? 人間が大量に死んだ日なら、『終わりの日』とかでもいいのによ」
センは声色を崩さずに聞いてきた。言われてみればそうだ。『はじまりの日』には、何が『はじまった』んだ。
「作為的なものを感じないか? 誰にとっての、どんな『始まり』だったのか。その答えを、オレは少しだけ知っている。教えてやんねぇけどな!」
「そうか。なら聞くつもりもない。さっさと土に還れ」
俺は腰のポーチから麻酔針を取り出し、センに向かって投げた。俺の武器は『クロミール』だけじゃない。戦況を変えるためには、戦術を変えるのだ。
センは俺の手の動きを見て、何かが来ると察したらしい。体を右に傾け、立ち位置をずらした。結果、俺の麻酔針はセンに当たらず、道路に突き刺さった。
やはり、センの反応速度は目を見張るものがあるな。
「麻酔針、か。ショボい攻撃しやがって。そんな小細工でオレを殺せると思ってんのかよ!」
またしても挑発。センの方も焦っているのか?
一刻も早く敵を殺したいのは、どちらも同じ。なら、焦ってミスを犯した方の負けになるだろう。
切迫する戦場に鳴り響く銃声。
オーディンが拳銃でセンを撃っていた。センは咄嗟に体を回し、オーディンに肩を向けるようにして立った。そして『セナージ』で銃弾を切り裂く。真っ二つになった銃弾は、木の枝のように二股に分かれて飛んでいった。銃弾の欠片がセンの体のスレスレを通り、道路に衝突していく。
俺はその様子を目で捉えるのが精一杯だった。なのにセンは、素早く的確な対処をしていた。
「くたばれ」
センの斬撃がオーディンを襲う。だがオーディンはセンが攻撃モーションに入った時点で、既に回避行動を終了していた。『セナージ』が、何もない空間を切断する。
素早い攻撃と巧みな回避。その繰り返しが続いていた。
「その狂ったような殺意……。我が輩の悪意に匹敵する脅威だ」
「オレは狂ってねぇよ。欲望に忠実。至って健康な精神だ。テメェ等の方がよっぽど狂ってるぜ。己の中に潜む殺意と向き合わないなんてよぉ……」
殺意と向き合ってお前のようになるくらいなら、狂った方がマシだ。
……と思ったが、殺意から逃げてばかりはいられない。
俺は自分の殺意から逃げてきた。心が弱い故に、自分の殺人を正当化してきた。いざという時には殺す覚悟があるつもりだったが、やはり殺人が怖かった。仲間を守るために本当の殺意を持つことすら、出来ない女だった。
今こそ向き合う時なのかもしれない。弱さを断ち切る時だ。ここでセンを殺し、人々の命を守り、俺は覚悟を決めてやる。
そのためには、俺は血に染まってやるよ。
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