招来
「では、また明日。夜毎ちゃんと何かあったら堪忍しませんから! 姦淫の刑ですから!」
「ご実家の前でとんでもないことを言うな!」
世も末のド犯罪に手を染めんとする幼馴染が隣の家に吸い込まれるのを、僕は手を振って見送る。
「い、いつもあの調子ですの?」
「まあ。でも勘違いしないで。静久は本当にすごくいい子なんだよ」
「矯正しようとしたことはないんです?」
「一切ない。嗜めることはあってもね。静久が静久らしくあることは、僕の最上級の喜びだ」
「やっぱりこの人変ですわ、ヤバいですわ……」
夜毎は恐々としていた。愛しいものを愛しいと言って、何が変なんだろうか。さすが鬼。人間と感覚がズレている。
「大きな家ですわね」
「うん。僕には大きすぎる」
一戸建ての2LDK。鍵を開けて、玄関の電気を付ける。
靴を脱ぐと、足首に絡みつくような不快感を覚えた。どこかで水たまりを踏んでいたのか、靴下がべちょべちょに濡れている。
ソレを脱ぎながらため息をついて──振り返ると、夜毎はドアの外でじっと佇んでいた。
「どうしたの?」
「……入ってよろしいのですか」
「今更遠慮しなくていいって。どうぞ」
「では、お邪魔しますわ!」
「うわっ!?」
風を切って。
夜毎はリビングに特攻していった。
「ソファーにだーいぶ! うふふ、らくちんですわ。あら、漫画がたくさん! あ、コレまだ読んでいない続刊ですわ! お借りしてもよろしくて?」
「別によろしいけど、変わり身の早さが凄いのなんの。玄関での殊勝な態度はどこ行った?」
「良いではありませんか。鬼に変身することしかり、わたくし変わり身の早さには定評がありますのよ!」
どこ評なんだよ。
僕は呆れつつ、夜毎を抱き起こす。
「ひゃ」
「だらだらする前に、ほら」
「ど、どこに連れて行くおつもりですの?」
「? 風呂に決まって——」
「やっ、やっぱり襲うつもりですのね⁉︎」
「馬鹿言え。雨と泥でベチャベチョの女児を見て興奮するのは、拗れ切ったロリコンだけだ。最初着てた服も洗濯してあげるから、貸しなよ」
そう言うと夜毎は、
「失礼いたしました。でも、お風呂だけいただきます」
と、礼儀正しく一礼して——ふわり。
真っ赤なバスタオルを生み出して、身に纏って風呂場に入っていった。
ああ、なるほど。
汚れても、変身してしまえば関係ないらしい。
「ソファーは汚れたまんまだけど……、仕方ない。子供のやったことだ」
僕は適当なタオルを持ってソファーを拭く。それで、溜めていた洗濯物とまとめて洗濯機に放り込み、洗剤とスイッチを入れる。
「あ、泥汚れって分けて手洗いすべきだっけ。まあ……、もう一回洗ってもいいか」
一人暮らしで日常となった独り言を溢しながら、僕は洗濯槽を見つめる。
乱れのない、規則的な動作。
屋上で見た回転とは違う、無機質なもの。
「……さて、取り敢えず夕食にして、明日に備えないとな」
鬼が居るけど洗濯なんて、おちおちしてられない。
早く謎を解明しなければ。僕は今後に考えを巡らせガチャ。
「え?」
「あら?」
こうして僕は、ツンデレがツンギレどころか、ガチギレに進化する瞬間に立ち会った。
吸血鬼のバスタイムは、烏もビックリの行水ぶり。
ギャルゲーのお約束展開だったが、幼女相手では申し訳なさしかなかった。
その後。
「今の間に合ってないんですの!? ちょ、弾はや……っ、前ジャンプ──また落ちましたわぁ! このチャイナ娘、リーチ長すぎるのですが!」
「邶萊の鬼殺し翔脚、めちゃつよ。あと、夜毎が選んだギガント・ゴライダム、ガン待ちキャラだから。攻めると弱いよ」
「この見た目でぇ!?」
なんとか許された僕は、バランス崩壊格ゲーを夜毎にすすめ、それはもうボッコボコにした。
クソキャラの前ではクソガキも顔を顰めていたが、しかし、どうやら格ゲーの心得があったらしく、意外とすぐに動けるようになってきた。
結局、日が変わるまで対戦をして……、戦績は二十三勝二敗。やるかやられるかのバランス故の対戦数だが、ともかく僕の圧勝だった。
いぇー。
「ま、めげないことだね。また明日かかってこい」
「明日──ええ、ええ! 望むところですわ! うふふ、わたくし初めて友達ができてしまいましたわ!」
僕の何気ない言葉に、夜毎は本当に嬉しそうな反応を返す。
ああ、まったく。
夜毎の頭を撫でまわすと、きゃあきゃあ言いながら、華やかな笑顔を咲かせる。
こうして、出会って初日ながら、僕たちは友達になった。




