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透明高校生は黙らない  作者: 新芽鳥
透明高校生は屋上バレリーナの凋落を黙らない
5/18

雌餓鬼

 一変。


 髪は群青に染め上がって、釣り上がった眦(まなじり)はそのままに、瞳は目覚めるような紅色へ、おおよそ人間らしからぬ色合いとなって、僕たちを睥睨(へいげい)している。


 額からは凶器が並んで聳(そび)え立つ。体格に似つかわしくない双角は、己の格、それから人間との差を如実に示している。


 キャミトップは烏羽(からすば)を重ねた漆黒のフェザードレスへ、首元には銀色のチョーカーが鈍く光り、スニーカーは金色のパンプスに姿を変えて全体を煌びやかに締めている。


 純情可憐。

 妖怪変化。

 正体解明。

 鬼のお出まし——。


「……」


「驚くのも無理なくってよ。でもね、わたくし待つのは嫌いですの」


「え、っと……」


「あなた、早く退きなさいな。この双角が目に入りませんこと?」


「いえ、見えていますが……」


 間違いなく見えている。正体も聞いたし、驚きもした。


 だからこそ困惑気味に、静久は言葉を返す。


「余裕で抑え込めているので、なんと言いますか……、ね」


 ね。


 鬼札夜毎と名乗った少女はゆるい会話に業を煮やし、妖(あや)しくメリメリとツノを生やしたかと思えば、僕たちを脅しにかかった。


 が、静久に押さえつけられている状態は依然変わらず、外見が変わっただけで、脅威にはなりそうもなかった。


 メスガキが、ホンモノの雌餓鬼になった。

 それだけだった。


「んーっ? んーっ、にゅっ……なんで、ぇ! 抜けませんの、よっ!」


 暫(しばら)くうにょうにょしていたが、どうしても抜け出せないと分かると、自信に満ち溢れていた姿はどこへやら、鬼の少女は、


「やぁ、やですわぁ……。いやぁ……」


 と、うるうるしだす。


 静久を見ると、清楚な彼女には珍しく、意地悪な笑みを浮かべていた。

 うわぁ……、どっちが鬼なんだか。


「助けるかどうかは、あなたの態度次第ですよ」


 静久はどっしりと、夜毎に反省を促す。


「うえぇ、申し訳、ひっく、ございませんわぁ……。もうしません、ゆるしてくださいまし……」


 ツノより先に心が折れた様子だった。


 鬼とはいえ、僕たちの財布をスったとはいえ、ぐすぐすと泣く少女を見ていると心が痛い。


「その、静久。離してあげてもいいんじゃないか。反省してるようだし。何か事情があるのかも」


「甘いです」


 ピシャリと静久は言い放った。


「また見た目に影響されています。捕まえたのがチャラチャラした輩だったらどうしていますか? 変身した姿が筋骨隆々の大男だったら、警戒を緩めたりしますか? 泣いているのが全部嘘っぱちの演技で、離した瞬間に攻撃される可能性を少しでも考えましたか?」


「それは……」


「今言ったのは、全部可能性です。ですが可能性は、未定の現実想定。リスクなんです」


 抱えていると気づかなかった——油断していた。静久の言うことは至極真っ当だ。指摘されてみると、僕がいかに考えなしだったか良くわかる。


 財布探しという、捜査のチュートリアル。それもこなせないのか。


 あまりにも正しい言葉に、自省する他ない。


「分かってくれたなら良いんです。大丈夫、しっかり反省できた泡沫くんはえらいですよ」


「僕は、足りてないね」


「いいんですよ。補うのが私の仕事ですから」


 微笑んで静久は言う。


 いつだって、静久は僕に寄り添ってくれる。もう一生添い遂げることが決定しているかのように、信頼と、愛と、甘やかしをもって接してくれる。


 しっかりしよう。


 甘えてばかりじゃいられない。


「ともあれ軽犯罪、もとい夜毎ちゃん。事情は話して貰いますよ」


「ええ、よろしくてよ。話さないとどうにもなりそうにありませんし、いい加減重いので——むぎゅ!」


 一言余計だった。

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