雌餓鬼
一変。
髪は群青に染め上がって、釣り上がった眦はそのままに、瞳は目覚めるような紅色へ、おおよそ人間らしからぬ色合いとなって、僕たちを睥睨している。
額からは凶器が並んで聳え立つ。体格に似つかわしくない双角は、己の格、それから人間との差を如実に示している。
キャミトップは烏羽を重ねた漆黒のフェザードレスへ、首元には銀色のチョーカーが鈍く光り、スニーカーは金色のパンプスに姿を変えて全体を煌びやかに締めている。
純情可憐。
妖怪変化。
正体解明。
鬼のお出まし——。
「……」
「驚くのも無理なくってよ。でもね、わたくし待つのは嫌いですの」
「え、っと……」
「あなた、早く退きなさいな。この双角が目に入りませんこと?」
「いえ、見えていますが……」
間違いなく見えている。正体も聞いたし、驚きもした。
だからこそ困惑気味に、静久は言葉を返す。
「余裕で抑え込めているので、なんと言いますか……、ね」
ね。
鬼札夜毎と名乗った少女はゆるい会話に業を煮やし、妖しくメリメリとツノを生やしたかと思えば、僕たちを脅しにかかった。
が、静久に押さえつけられている状態は依然変わらず、外見が変わっただけで、脅威にはなりそうもなかった。
メスガキが、ホンモノの雌餓鬼になった。
それだけだった。
「んーっ? んーっ、にゅっ……なんで、ぇ! 抜けませんの、よっ!」
暫くうにょうにょしていたが、どうしても抜け出せないと分かると、自信に満ち溢れていた姿はどこへやら、鬼の少女は、
「やぁ、やですわぁ……。いやぁ……」
と、うるうるしだす。
静久を見ると、清楚な彼女には珍しく、意地悪な笑みを浮かべていた。
うわぁ……、どっちが鬼なんだか。
「助けるかどうかは、あなたの態度次第ですよ」
静久はどっしりと、夜毎に反省を促す。
「うえぇ、申し訳、ひっく、ございませんわぁ……。もうしません、ゆるしてくださいまし……」
ツノより先に心が折れた様子だった。
鬼とはいえ、僕たちの財布をスったとはいえ、ぐすぐすと泣く少女を見ていると心が痛い。
「その、静久。離してあげてもいいんじゃないか。反省してるようだし。何か事情があるのかも」
「甘いです」
ピシャリと静久は言い放った。
「また見た目に影響されています。捕まえたのがチャラチャラした輩だったらどうしていますか? 変身した姿が筋骨隆々の大男だったら、警戒を緩めたりしますか? 泣いているのが全部嘘っぱちの演技で、離した瞬間に攻撃される可能性を少しでも考えましたか?」
「それは……」
「今言ったのは、全部可能性です。ですが可能性は、未定の現実想定。リスクなんです」
抱えていると気づかなかった——油断していた。静久の言うことは至極真っ当だ。指摘されてみると、僕がいかに考えなしだったか良くわかる。
財布探しという、捜査のチュートリアル。それもこなせないのか。
あまりにも正しい言葉に、自省する他ない。
「分かってくれたなら良いんです。大丈夫、しっかり反省できた泡沫くんはえらいですよ」
「僕は、足りてないね」
「いいんですよ。補うのが私の仕事ですから」
微笑んで静久は言う。
いつだって、静久は僕に寄り添ってくれる。もう一生添い遂げることが決定しているかのように、信頼と、愛と、甘やかしをもって接してくれる。
しっかりしよう。
甘えてばかりじゃいられない。
「ともあれ軽犯罪、もとい夜毎ちゃん。事情は話して貰いますよ」
「ええ、よろしくてよ。話さないとどうにもなりそうにありませんし、いい加減重いので——むぎゅ!」
一言余計だった。




