↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
透明高校生は黙らない  作者: 新芽鳥
透明高校生は屋上バレリーナの凋落を黙らない
4/18

メスガキ

 時刻は十九時三十分、『エレナ』を出た僕たちは、ひとまず近くの交番に向かった。残念なことに、僕の財布は届いていないらしい。


「私は駅方面を探してきますね。泡沫くんは紛失届を書いておいてください」


 聞くなり静久はそう言って、駅から僕が辿った道を探しに行ってくれる。


 変わって僕は警官に案内を受け、言われた通り、紛失届を書いた。無くなったものを一つ一つリストアップする。うわー。面倒くさいとか言ってる場合じゃないが、めちゃめちゃ萎(な)える。


 住所やら、電話番号やら、細かい欄を埋めきって、それから見つかった場合の説明を聞き、他の警察署と連絡し合っているのを横目で見て、等々(などなど)。


 盗難と断定できないとはいえ、段階的に大ごとになっていくのを肌で感じながら、僕はじっと座っていた。


 しかし、こうして警察にお世話になるのも、三年振りか。


 勿論、犯罪で捕まったんじゃない。どっちかといえば、僕が捕まえた。捕まえてしまって、掴まれた(・・・・)。ともかく、助けてくれた警察の人には感謝しかない。


 あの人、なんて名前だったか。色物芸人みたいな響きだったはず。気ーづいちゃった気ーづいちゃったワーイワイ(対象発見)。


 刑事(デッカ)ちゃんだよ。


「んじゃ手続き終わりましたんで」


「ど、どうも、お世話になりました」


 馬鹿なことを考えている間に手続きが終わった。僕は礼を言って、交番を出る——ポケットに振動——途端、着信。


〈白銅静久〉。


「ん」


『泡沫くん。今どこですか?』


「交番を出たばっかりだよ。……まさか見つかったの?」


『えっと、財布は見つからなかったんですけど』


「けど?」


『犯人を見つけました。で、とっ捕まえましたので、四丁目西の、墓石屋まで来てください」


 通話終了。


「いぇー。……えぇ……うそぉ……?」


 話が早すぎる。彼女の要領の良さとフットワークの軽さは、子供時代からよく知っていたけれど、それにしたって早過ぎる。僕が束になってかかっても追いつけない。


 負けじと(?)、僕は足早に指定された場所へ向かった。


 そして、


「あっ、泡沫くん。待ってましたよ」


「離してくださいまし! 離してくださいまし!」


 雨が降り頻(しき)る中、静久に組み敷かれている少女の姿を目撃した。


「見た目よりすごく重いですわ!」


 這う這うの体の、お嬢様だった。


「この子が犯人?」


「はい、おそらく。最初は道端(みちばた)でこつんとぶつかったので、心配したんですけれど、財布をスられたとその場で気付きまして。で、もしかしなくても、泡沫くんも同様にスリにあったのではないかと」


 『エレナ』に向かっている時にぶつかったマドモアゼルが、静久に取り押さえられている。


 こんな形で再会したくはなかったけれど、なるほど、僕は決して財布を道端に落とすようなおっちょこちょいではなく、軽犯罪の被害者だったらしい。良かった。


 いや、別に良くはないか。


 で、一つ疑問がある。あの一瞬で財布をスるなんて出来るのだろうか。


 手先のテクニックとか、油断を誘う外見とか、その辺の要素が関係していないとは思わない。


 しかし、僕は財布をしっかりと収納していた。

 チャック付きのリュックの前ポケット、その奥底に入れていたのである。


 それ即ち、僕に気付かれないようジッパーを開けて、財布を抜き取ったってことになる。


 僕、間抜けすぎないか……?


 待て待て。結局未遂に終わったとはいえ、静久だって一度は財布をスられている。でも、彼女の鞄はよくあるタイプの、エナメル製スクールバッグ。こちらもチャックが付いていて、財布を盗み取るのは難しい。


 ちょっとぶつかったぐらいの時間で開閉なんて、ちびっこには出来っこない。


「問い詰めようとしたら、すぐ逃げ出しまして。追いかけていたらこんなところまで来てしまいました。悪党を追いかけて、アジトを突き止めたわけです! 私、しゅごい!」


 凄いけど、失礼なことを言うんじゃない。人様の店だぞ。


 まあ実際、アジトらしくはある……、大通りから随分外れていて、派手な外装があるはずもないので目立たない。建物も年季が入っていて──電気も付いていないようだ。


 入り口に近寄ると、大きな張り紙がされている。


 『家庭の事情により、しばらくの間休業いたします』。


 ふむ。寂れた町外れの陋屋(ろうおく)は、いい隠れ家だろう。中はどうなって、と思ったが、鍵がかかっている。そりゃそうか。


 振り返って周囲を見渡すと、半開きのシャッターが目に入る。


 車庫だ。二台は置けそうだが、社用車らしきものはない。お誂(あつら)え向きに、スペースがぽっかり空いている。潜んでしまえば子供一人、見つかりはしないだろう。


「全く。こんなに重いのに足も速いなんて、信じられませんわ」


「おい、メスガキお嬢様」


「メスガキお嬢様!?」


「逃げようってんなら、諦めた方がいいよ。静久はこう見えて重量級だからね」


「ちょっと! 女の子に重いとか言わないでください! 失礼じゃないですか!」


「ごめん、訂正。こう見えて精神的に重量級だからね」


「あんまり変わってないですね……、否定できませんけども。けど泡沫くん、物理面に関しては改めて否定します。ええ、反駁(はんばく)しますとも!小さい女の子とはいえこうして楽々と押さえつけているのは、重量というか膂力(りょりょく)のお蔭です!私は可憐な美少女なんですー!」


「そうだね。ごめんね」


 ふくれっ面の静久を撫でて、僕はなだめる。


「自分で美少女とか言うの、どうなんですの?」


「少なくとも僕は気にしない。実際ものすごい美少女だから」


「えへへ、ものすごいときましたか。泡沫くんったらお上手なんですから。褒めても婚姻届しか出ませんよ?」


「ははっ。役所には出すなよ」


「あの、わたくしの上でいちゃつかないでくださる? 不快ですわ」


「む。立場が分かっていないんじゃないですか、軽犯罪」


「軽犯罪!? 単に!?」


 罪の権化となってしまったちび鬼がぷんすこする中、静久はたおやかに微笑んで言う。


 物理的にも精神的にもマウントを取っている。完全な優位だ。


「好き勝手言ってくれますわね! ……でも残念でした。見た目通りじゃないのは──わたくしもですわ」


 その反論で、空気が変わった。馬鹿話は終わりだと言わんばかりに、しんとして。


 少女の身体から紫色の煙が噴出する。

 撒き散らされる不詳の暗黒で、空間が他靡(たなび)く。

 少女は笑う。らしからぬ凄惨さを以て、僕たちを嘲笑(あざわら)う。

 次第に黙って、ゆっくり、闇が薄まって。


「申し遅れました。わたくしの名は、鬼札夜毎(おにふだよごと)。誉ある鬼の一族筆頭・鬼札家の次女」


 幼い少女は文字通り、頭角を現していた(・・・・・・・・)。


「控えなさい。逆らったら、どうなることか分かりませんわよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。