茗花高校の名探偵
「で、話ってなんです?」
注文の品が届き一息ついたところで、静久は言った。そうだ、本題は幼馴染とエキサイティングなやり取りをすることじゃない。屋上少女の話を聞いてもらうために呼び出したんだ。
少女の消失に今まで誰も触れていないという、明らかな異常事態。
ずっと黙っておくのは無理だった。
黙っていられなかった。
「二日前のこと……」
僕はあらましを語った。屋上にいた少女がバレエを踊り、夕立に打たれて落下し、姿を消した。そんな荒唐無稽な話を。
静久は最後まで黙って聞いていて、
「ふむ」
と、一言。それからちょっとして、バニラアイスをざっくりと削り取り、口に運んで、
「私というものがありながら、手紙で呼び出されてほいほい向かったんですか。人気のない別館屋上とかいう、格好の告白スポットに。で? そんなに美人だったと? ふーん? ふぅーーーーん?」
盛大に拗ねた!
「い、いや。大事だったらヤだし、無視するのもアレだし、行ってみただけ──って。そこは大事じゃないだろ」
「やですね、ジョークですよ」
「完全に目が笑ってなかったけど」
「道化師は本当の笑顔を隠すものですよ」
「僕の幼馴染、怖すぎやしないか?」
「しかし」
静久は斜め上を向いて、思案顔になる。
「現実らしくない話です。屋上から落ちた人が、血痕すら残さずに消えてしまったなんて」
「映画、いや舞台……、いずれにせよ、フィクションな光景だった。でも間違いなく見たんだよ」
「疑っていませんよ。妄想、陽炎、夕方老眼。色んな可能性はあるでしょうけど、泡沫くんが見たというなら信じます。まるっと全部受け入れます」
静久の唇に桜桃が消えた。一切の疑念を感じなかった。目にした僕が自分を疑ってしまうぐらいには荒唐無稽というか、耳を疑ってしまう話なのに僕を信じてくれている。
静久は僕の目をじっと見て、言った。
「よろしい、茗花高校きっての名探偵・静久ちゃんに任せてください! 明日の放課後、別館の屋上にいきましょう!」
「その通り名は初めて聞いたけど……、ありがとう。心強いよ」
僕は頷いて、屋上少女消失事件はなんともスムーズに、二人での捜査に切り替わった。
「さて、罰を執行します。忘れたとは言わせませんよ。こうぎゅーです!」
「あ……、えーと。お店だし。周囲への配慮というか、慎みというか?」
「泡沫くん、考え方が古いです。この店ぐらい旧いです。日本人思考から脱却しましょう。維新です。心身一新の時です。なんなら、ちゅーでもいいんです」
「さりげなくちゅーを正当化するなよ。もう少し人目を憚って」
「裸になって!? 泡沫くんのすけべ!」
僕の弱パンチが炸裂する。
「けぷ」
それで、静久は赤ちゃんみたいな噯気をする。
炭酸ばっかり飲んでいたっけ。気が抜けるな、ホント……。
「ともかくありがとう。相談料ってことで、今日は奢るよ」
リュックの前ポケットを開け、僕は財布を──ん?
財布、サイフ。
「もしかして置いてきました?」
「……えぇー?」
思い出せ、財布に仕込んである定期券を駅で使って、それから一度も取り出していないはずだ。
席の周りに転げていないか改めて探す。が、やっぱりない。
……あちゃあ。
「私が出しますね。もとより今日は、そのつもりでしたから」
あれよこれよと、静久に奢られてしまう。
まずい。いや、僕のメンツなんてもの、静久相手に保つ必要は全然無いんだけれど、財布には出たばっかりのバイト代が入っていたのだ。諭吉さんのメンツは数字と等しい価値がある。
お金は大事だ。捨ておけない大問題だ。
「落ち着いてください。私も一緒に探しますから。こういう時こそ気楽にいきましょう」
出鼻をくじかれた気もするが、うだうだ言ってても仕方ない。行動するが吉。天命を待つのは人事を尽くしてから、か。
「見つかったら、ご褒美にたっぷりぎゅーしてくださいね?」
目を爛欄とさせて静久は言った。奢ってもらった手前、断れなかった。




