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透明高校生は黙らない  作者: 新芽鳥
透明高校生は屋上バレリーナの凋落を黙らない
3/18

茗花高校の名探偵

「で、話ってなんです?」


 注文の品が届き一息ついたところで、静久は言った。そうだ、本題は幼馴染とエキサイティングなやり取りをすることじゃない。屋上少女の話を聞いてもらうために呼び出したんだ。


 少女の消失に今まで誰も触れていないという、明らかな異常事態。


 ずっと黙っておくのは無理だった。

 黙っていられなかった。


「二日前のこと……」


 僕はあらましを語った。屋上にいた少女がバレエを踊り、夕立に打たれて落下し、姿を消した。そんな荒唐無稽(こうとうむけい)な話を。


 静久は最後まで黙って聞いていて、


「ふむ」


 と、一言。それからちょっとして、バニラアイスをざっくりと削り取り、口に運んで、


「私というものがありながら、手紙で呼び出されてほいほい向かったんですか。人気のない別館屋上とかいう、格好の告白スポットに。で? そんなに美人だったと? ふーん? ふぅーーーーん?」


 盛大に拗(す)ねた!


「い、いや。大事(おおごと)だったらヤだし、無視するのもアレだし、行ってみただけ──って。そこは大事じゃないだろ」


「やですね、ジョークですよ」


「完全に目が笑ってなかったけど」


「道化師(ジョーカー)は本当の笑顔を隠すものですよ」


「僕の幼馴染、怖すぎやしないか?」


「しかし」


 静久は斜め上を向いて、思案顔になる。


「現実らしくない話です。屋上から落ちた人が、血痕すら残さずに消えてしまったなんて」


「映画、いや舞台……、いずれにせよ、フィクションな光景だった。でも間違いなく見たんだよ」


「疑っていませんよ。妄想、陽炎、夕方老眼。色んな可能性はあるでしょうけど、泡沫くんが見たというなら信じます。まるっと全部受け入れます」


 静久の唇に桜桃が消えた。一切の疑念を感じなかった。目にした僕が自分を疑ってしまうぐらいには荒唐無稽というか、耳を疑ってしまう話なのに僕を信じてくれている。


 静久は僕の目をじっと見て、言った。 


「よろしい、茗花高校きっての名探偵・静久ちゃんに任せてください! 明日の放課後、別館の屋上にいきましょう!」


「その通り名は初めて聞いたけど……、ありがとう。心強いよ」


 僕は頷いて、屋上少女消失事件はなんともスムーズに、二人での捜査に切り替わった。


「さて、罰を執行します。忘れたとは言わせませんよ。こうぎゅーです!」


「あ……、えーと。お店だし。周囲への配慮というか、慎みというか?」


「泡沫くん、考え方が古いです。この店ぐらい旧いです。日本人思考から脱却しましょう。維新です。心身一新の時です。なんなら、ちゅーでもいいんです」


「さりげなくちゅーを正当化するなよ。もう少し人目を憚(はばか)って」


「裸になって!? 泡沫くんのすけべ!」


 僕の弱パンチが炸裂する。


「けぷ」


 それで、静久は赤ちゃんみたいな噯気(げっぷ)をする。

 炭酸ばっかり飲んでいたっけ。気が抜けるな、ホント……。


「ともかくありがとう。相談料ってことで、今日は奢るよ」


 リュックの前ポケットを開け、僕は財布を──ん?


 財布、サイフ。


「もしかして置いてきました?」


「……えぇー?」


 思い出せ、財布に仕込んである定期券を駅で使って、それから一度も取り出していないはずだ。

 席の周りに転げていないか改めて探す。が、やっぱりない。


 ……あちゃあ。


「私が出しますね。もとより今日は、そのつもりでしたから」


 あれよこれよと、静久に奢られてしまう。


 まずい。いや、僕のメンツなんてもの、静久相手に保つ必要は全然無いんだけれど、財布には出たばっかりのバイト代が入っていたのだ。諭吉さんのメンツは数字と等しい価値がある。


 お金は大事だ。捨ておけない大問題だ。


「落ち着いてください。私も一緒に探しますから。こういう時こそ気楽にいきましょう」


 出鼻をくじかれた気もするが、うだうだ言ってても仕方ない。行動するが吉。天命を待つのは人事を尽くしてから、か。


「見つかったら、ご褒美にたっぷりぎゅーしてくださいね?」


 目を爛欄(らんらん)とさせて静久は言った。奢ってもらった手前、断れなかった。


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