↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
透明高校生は黙らない  作者: 新芽鳥
透明高校生は屋上バレリーナの凋落を黙らない
13/18

鬼

 人ヲ殺ス鬼。


 訓読で浮かび上がる、化物の存在。


「さあ、進んできたぞ。キーファクターである鬼の話をしよう。唐突に思うかもしれないけれど、本当に関係がある。一旦飲み込んでちょうだいな。さて、泡沫くんは鬼について、どんなイメージを持っているかい?」


「え、っと……、赤い肌をしていて、筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)。牛の角と寅柄のパンツがトレードマークの荒くれもの。残虐な性格で、災いを引き起こす存在。こんな具合でしょうか」


「昔話的なイメージだね。でも、鬼っていうのは一枚岩では語れない。『流行病』『山賊』『精神異常者』。古から様々な恐怖が鬼というデフォルメを以って表現されているんだ。けれども、その実際は多岐にわたっているのさ。オマケに鬼は仲間を増やすのが上手い。酒呑童子(しゅてんどうじ)みたいな人と鬼のブレンドまでいる始末だ」


 雑破刑事がカップを傾ける。


「で、その力量は知名度と比例する傾向にある。例えば、今泡沫くんが挙げてくれた典型例の『赤鬼』は、古来より寓話(ぐうわ)に登場して、人口(じんこう)に膾炙(かいしゃ)している。様々な物語が残されて、多くの鬼の源流となっている。……ここからが本題。鬼札夜毎が何の鬼か、考えてみてほしい」


「夜毎? 学校の事件と夜毎に何の繋がりが……」


「同一種類の鬼だと、思われるから」


「同一……!?」


「鬼札夜毎は犯人じゃない。けど、関係者というか縁者なんだ」


 ……仲間だということだろうか。今の夜毎からは想像できないが。


「そもそも、どうして雑破さんは夜毎を知っているんです?」


「警察だからね。情報収集はお手のものだよ。さて、餓鬼とか天邪鬼とか色々いるけれど、キミは答えに辿り着けるだけの情報を得ているはず。鬼札夜毎は何の鬼か。ついでに殺人鬼が一体誰なのか、当ててみてたまえ!」


***


 僕は考える。


 夜毎と初めて出会ったのは、『エレナ』への道中だ。


 彼女とぶつかって、財布をスられた。これは夜毎自身が自供している。けど、夜毎の意思とは裏腹に、僕の財布はいつの間にか、どこかに消えてしまっていた。まるで夜毎の家族と住居が、突然消えてしまったかのように。


 次に相対したのは、静久による現行犯逮捕の瞬間だ。


 あの時は、夜毎の話しっぷりにノまれていたけれど、今になると不審な点はいくつもある。


 例えば、警察に助けを求めなかった点。変装時の夜毎は、見た目は可憐な女の子である。よしんば鬼が世を忍び隠れ住んでいるのだとしても、公園暮らしよりマシなはずだ。


 ──それにわたくし、習い事は出来ない性質ですから。三日も経てば、続かなくなります。


 ふと、夜毎の三日坊主宣言を思い出す。別に夜毎は飽き性ではない。未読の続刊の存在にすぐ気づくほど継続的に漫画を読んでいるし、恋愛ゲームを何周もしたりテトリスで高等テクニックを習得したりと、ゲームはキッチリやり込むタイプ。彼女はオタクなのだ。


 だから、逆なんじゃないか?


 夜毎が続けたくないのではなく、教える側が続けられない。


 夜毎が警察を頼らないんじゃなくて、警察が夜毎を助けられない。


 夜毎が友達を作らないのではなくて、他人が友達になれない。


 ──すぐに関係なくなるから……、いえ。言い訳ですわね。


 あれがスリをする言い訳ではなく、事実だとしたら?


 思考を巡らせる。


 今や、僕は屋上少女の殆(ほとん)どを覚えていない。


 屋上での調査の後に静久と話していた時は、ぼんやりと覚えていたはずなのに、外見、声、会話があったかどうかすら、忘れてしまっている。


 残ったのは、〈落下する人間を見たが消えていた〉という事象そのものの記憶だけである。


 男子三日会わざれば刮目(かつもく)してみよという言葉があるが、殊(こと)に夜毎においては、三日会わざれば赤の他人になってしまうのだとしたら。


 それから、家を失った夜毎が拠点としていた場所……、休業中の墓石屋。店舗には鍵がかかっていたが車庫は開放されていて、夜毎はそこを寝床にしていた。窓のない、シャッター付きの車庫。締めてしまえばまず誰にも気づかれない。


 確かに仮宿としては、いくらか適している。けど、例えばスリで得たお金で漫画喫茶等に泊まる方が、圧倒的に快適だろう。それは鬼札家の矜持(プライド)が許さなかったのか、はたまた僕から盗んだお金で実際にそうするつもりだったのか。


 実際は分からないけれど、いずれにせよ、あそこを選んだのは何か理由があるんじゃないか。


 また、快適性を捨てて雨を凌ぐだけというなら、他にも選択肢はある。究極的には、公園内のトイレだっていい。しかも風呂場で披露されたように、変身能力を持つ夜毎に服の汚れは関係ない。


 ……変身。


 服装を変える、だけじゃない。夜毎はツノを生やして鬼の姿となったのとは反対に、人間に擬態(ぎたい)するため、一度ツノを消しているはずだ。


 消す──消失。


 姿を消している。


 あ。


 今。


 僕は一つの『鬼』に思い当たる。


 【どんな対戦ゲームでも待ち時間がない】

 夜行性で、


 【短時間でバラバラ殺人をやってのける】

 身体能力が高く、


 【雨が降り出し事件が起きる】

 気象操作能力があって、


 【態々許可を得て僕の家に立ち入った】

 形式を重んじ、


 【閉鎖空間を寝床にしている】

 日光を嫌い、


 【殺人鬼は夜毎と同じ種類】

 仲間を増やす能力のある、


 鬼。


 夜毎の一族が日本を恐怖させた『原初の鬼』だからといって、日本生まれの鬼であるとは限らない。古典的な鬼のイメージが先行していて無意識に除外していたが、名家に相応しい著名な——西洋の鬼がいるじゃないか。


 雑破刑事は待っている。


 余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)、しかし粛々、回答を待っている。


 僕は、口を開く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。