廻天
『次のニュースです。昨日午後六時半ごろ、波川市西区の茗花高校で、教員が生徒二人の遺体を発見し、警察に通報しました。現場に残された学生証から、被害者は同校の生徒である北川北斎さん十六歳、真南真奈美さん十六歳とみられています。警察は殺人事件とみて、捜査を進めています』
「またニュース見ているんですの? ……はあ、ゲームでもしませんか? 前の格ゲ──あー、その、て、テトリスとか!」
死体発見の翌日。学校は生徒の安全の為という名目で臨時休校、外出自粛を言い渡した。
僕も現場を目撃したわけだが、簡単なヒアリングを受けて、早々に帰された。第一発見者ではないからなのか、下校時刻を迎えていたからなのか。どうあれ、生徒の出る幕ではないらしい。
『続いて、天気予報をお伝えします。明日は県全域、雨の予報です。例年梅雨入りはまだまだ先ですが、異例の停滞前線——』
そこまで聞いて、僕は地デジから入力切替をした。
ゲーム機の電源を入れ、オンラインサービスに付随するクラシックゲーム・アーカイブスから、テトリスを選択する。
バランス崩壊格ゲーをかなり気に入っていたと思ったが、何故急にテトリス——もしや、凄惨な現場を見た僕に気を使って、殴る蹴るの格ゲーを避けたのだろうか。
気にしいだ。僕の使う邶萊はかなりの弾キャラだぞ。
……いや、自分でも分かる。これは強がりだ。
僕は気遣いとコントローラーを受け取って、対戦モードを選択する。
「やろっか」
「ええ! こう見えてもやり込んでいますのよ。山岳積み3号ぐらい、余裕のよっちゃんですわ!」
テクニックは新しいのに言葉遣いは古いな……、それはさておき。
僕は簡明なドット絵のゲーム画面を前に、今回の事件に思考を巡らせる。
大変なことが起きた。警察が来て、ニュースになって、休校になった——どうして?
いや、今回の事件は間違いなくセンセーショナルな出来事だ。二人も被害者が出た、惨殺事件である。報道もやむなし。
僕があらためて不思議に思ったのは、【なぜ屋上少女の消失は事件にならなかったのか】だ。
確かに性質は違う。男子トイレでの殺人は目に見えて分かるが、屋上少女の消失は空目を疑うぐらいに掴みどころがない。
でも、ある日生徒が忽然と居なくなったら、それは立派な行方不明事件だ。怪奇現象だろうがトリックだろうが、人が消えたという結果は変わらない。
僕があの日抱いた『何もない』という違和感は、屋上少女の友人やクラスメイト、教師など、関係者が抱いて然るべきもの。
なぜ誰も屋上少女の不在を気にしない?
親はどうしている?
警察は把握しているのか?
報道までされなくとも校内では周知されるものじゃないのか?
「猫じゃないんだぞ……」
「Tスピン、スピン、スピン、あっ詰まりましたわぁーー、ちょっ!」
屋上少女は生徒ではない?でも、ウチの制服を着て高校の屋上にいたし……、待て、服装?
横目で夜毎を見る。今は、ダボっとしたパジャマを着てコントローラーをカチャカチャやっている一端のゲームオタクスタイル。だが、彼女の能力なら一瞬にして、メスガキにも令嬢にもなれる。
見た目に惑わされるな。バレエも、トゥシューズを履いていたのも、全部見せかけ。ミスディレクションかもしれない。
そうすると屋上少女の正体は益々不明になるが──着信。
〈白銅静久〉。
「夜毎、ちょっとごめん」
「え、ええ。むぅ、こんなに強いなんて聞いてませんわ……」
中断して、僕は通話ボタンを押す。
「ん」
『や、透山泡沫くんだね!』
────え。
静久じゃない。
「誰で──」
『今すぐ喫茶エレナに来て。あばよ! ……違うね! またっ!』
一方的にそう告げられて、通話が終了する。
やけにハイテンションな女性の声だった。『エレナ』に来い? 殺人事件が起きたっていうのに、静久は家にいなかったのか? いったい何をして……。
──もう少し調べたかったのですが。
まさか。
──茗花高校きっての名探偵・静久ちゃんにお任せください!
休校になって時間ができたからって。
──私が泡沫くんのそばにいます。だから安心してください。
「何やってんだよっ……」
「どうされたんですの?」
「急用だ。出かけてくる」
「え、えぇ? 本当に急ですわね。どちらへ?」
「喫茶『エレナ』。また何か起きたのかもしれない。本当に大きなことが、起きてしまったかもしれない……! 夜毎。もし僕が朝までに帰ってこなかったら、警察に通報してくれ」
「……本気ですの?」
「マジだ。ああ、大マジだよ。匿名でもいい。終ぞ僕が戻らなければその時は、この家をセーフハウスにしてもらって構わない」
まだ湿っているスニーカーに足を突っこむ。
放っていた雨傘を握る。
向かう。
一刻も早く。
「あ、あの! よく分かりませんが──必ず帰ってきてください! もう、一人は嫌なんですの! 拾った責任、取ってもらいますわよ!!」
僕は強く頷きを返して、玄関を飛び出した。
雨音が酷くうるさかった。




