↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
透明高校生は黙らない  作者: 新芽鳥
透明高校生は屋上バレリーナの凋落を黙らない
10/18

散雨

「……あのさ、静久」


「はい?」


「考察が進む度に僕の頭を撫でるのは、なんで?」


「えー、別にいいじゃないですか。くっつきたいんですよー、本当はぎゅーしたいけど我慢してるんですよー」


 と、静久が甘えんぼモードになった所で、可能性の検討は一旦ストップして。


 長くなったから簡単にまとめよう。


 ロープアクションで窓に逃避するトリックは、屋上少女のバレエが否定した。空中制御もほぼ不可能、校内へ滑り込んだ可能性は低い。


 となると地面に着地したと考えるべきだが、マットへの着地および回収は、人目の点で疑問が残る。


 じゃあ直接着地したという説が出るも、生死はどうあれ動けなくなる可能性が高い。


 そしてキャッチは確実性の担保が難しく、総合的に勘案しても現実的じゃない。


 まさしく、分からないことが分かった。


 そして——もう一つ大きな謎が残っている。


 手段ではなく……、理由だ。


 静久には言えずにいる、屋上少女の『遺言』を思い返す。


『愛してくれなかったの、今までは』


 『今まで』。

 じゃあ、『これから』。


 何が起こるんだ?

 いや──何が起きたんだ(・・・・・・・)?


「……ん」


 ぬるい感触が、僕の頬に触れた。それは水滴だった。また触れた。頻度が徐々に増えていく。疑うまでもない──屋上少女を見失った、あの日みたいな夕立が。


 ばーーーーっと、降る。


 僕たちは慌てて荷物を回収し、校内へ戻った。


「ふぅ。間が悪いですね。もう少し調べたかったのですが」


「しょうがない。まあ、いい時間だし撤収にしよう。明日はそうだな、一応テニス部の連中に何か知らないか聞き込みしようか。僕もなんだか……、自信がなくなってきた。不思議なんだけど、あまり詳しいことを思い出せなくて」


「思い出せない? 結構詳しく話してくれましたけど」


「いや、何というか。状況は覚えているんだけど、屋上少女がどんな顔だったか……、いまいち思い出せなくて」


「む。あんなに美人美人言ってたのにですか?」


 不思議な感覚だった。


 見たはずなのに、思い出せない。

 確かに居たのに、覚えていない。


 黒猫を見ないフリするように。

 不吉な存在を追いやるように。


 僕はきっと屋上少女を——忘れ始めている。


「泡沫くんったら、今更誤魔化したって無駄ですからね?」


「……ま、まあ、ともかく。続きは明日にしよう。勘違いで済ましている目撃者が居るかもしれない」


「はい。心配しなくても、ちゃんと前進していますよ。それに」


「それに?」


「私が泡沫くんのそばにいます。だから安心してください」


「……うん。安心した。心底安心」


「えへへ、よかったです」


 風雨は鳴りを顰(ひそ)め、足音がこつりこつりと、重なって響いた。足取りは軽い。鞄も、軽い。失踪中の財布の重さ以上に。


「この後、またどこか寄りませんか? 今のうちに幼馴染との青春を謳歌しないと勿体ないですよ。結婚して子供ができれば、自由に遊びに行けないんですから」


「先を見据え過ぎだし、腰も据え過ぎている」


 今日の調査で『うまくいかない方法』を探していく中で、僕は屋上少女の消失がいかに突飛な現象か、改めて理解した。


 簡単には解決しないだろう。

 でも、僕は一人ではない。静久がいるし、夜毎からもまだ聞けることがあるはずだ。


 焦らず、捜査を進めよう。















——ぎゃああああぁぁぁぁぁ!!












怯む。


「ま、円炭先生の声です!!」


「行こう!!」


 僕たちは階段を駆け降りる、踊り場で旋回、下る、廊下の奥、目の端にへたり込む大男が映る。


「先生、何が──」


「く、来るんじゃない!」


「っ! 私、他の先生を呼んできます!」


「……」


「ちょ、そこで待、聞いていますか! 透山くん!!」


 脂汗を撒き散らしながら、円炭先生は声を張り上げる。


 だけど、僕は歩いた。


 さながら雨のように降って湧いた異変を、確かめずにはいられなかった。


 円炭先生の前には木製のドア。


 別館四階の男子トイレ。


 固唾を飲んで。


 取手を掴んで。


 僕は。


 扉を。


 開けた。


「————————あ」


 赤。


 赤色が、ある。


 青白色のタイルは塗りつぶされて、清廉(せいれん)を欠いている。


 立ち並ぶ小便器と個室の狭間。


 そこに、塊。


 平たい丸い大きい小さい、様々なモノが……、肌色が、大量に、バラバラに、積み上がっている。


 その頂点に、球体が二つ並んでいる。


 人間の、頭部だった。


「ぁ……、あ……、うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」


 色濃い恐怖が僕を襲う。


 吐き気を催す。視界が歪む。


 掴みどころのない消失とは違う質量のある死体を、僕はただ、見ることしかできず。


 淀(よど)んだ空気が、目の前の固形物が、降り頻る雨が、僕の全感覚を埋めていく。


 身体が現実逃避を始め、意識が薄らいでいく中で。


 かすかに、幼馴染の声が聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。