王子様、虫が駄目です
畑仕事が進むにつれ、リアンも少しずつコツを掴んできたようだった。とはいえ、まだまだ覚えることは多い。
「次はこっちの畝も耕さないとな」
「わかった」
意外にも素直に従うようになったリアンに、俺は内心少しだけ驚いていた。最初の頃の刺々しさが嘘のようだ。もっとも、口調自体は相変わらず偉そうなままだが。
「そこの土、もう少し柔らかくしてから種を蒔け」
「はいはい、承知しました王子様」
軽口を叩きながら土を掘り返していたそのとき、大きな芋虫がひょっこりと顔を出した。前世でもそれなりに見慣れたサイズのそれを、俺は特に気にせず手に取ろうとする。
「――っ」
隣から、小さく息を呑む音が聞こえた。振り返ると、リアンが妙に硬直した様子でその芋虫を凝視している。
「……どうした?」
「……いや、何でもない」
明らかに何でもなくはなさそうだった。俺は試しに、その芋虫をリアンの方へ少し近づけてみる。
「うわっ」
普段の落ち着いた様子からは想像もつかない、素っ頓狂な声が上がった。リアンは思い切り後ずさり、剣を持てば誰よりも頼りになるはずの体が、明らかに及び腰になっている。
「……もしかして、虫苦手?」
「そんなわけがあるか」
強がってはいるものの、目は明らかに芋虫から離れないようにしながら、こちらから距離を取ろうとしている。あからさまな矛盾だった。
俺は笑いを堪えながら、素手でその芋虫をつまみ上げた。リアンの顔が、さらに強張る。
「……お前は、恐ろしくないのか」
真顔で聞かれ、俺は思わず吹き出しそうになった。
「矢を向けてきたエルフよりは、全然怖くないな」
そう答えて、俺はその芋虫を畑の外へと逃がしてやった。振り返ると、リアンは安堵したような、それでいてどこか気まずそうな顔をしている。
「……別に、怖がっていたわけではない」
「はいはい」
「本当だ。ただの……不意打ちに驚いただけだ」
「その言い訳、無理があるって」
たまらず声を出して笑うと、リアンは初めて、本当に初めて、俺の前で声を上げて笑った。低く、けれど確かに楽しそうな笑い声だった。
「……お前、笑うこともできたんだな」
「失礼な。私だって、笑うくらいはする」
そう言いながらも、リアンの耳は今にも真っ赤に染まりそうだった。王族らしからぬ、意外すぎる弱点。それを見つけたことが、なんだか無性に嬉しかった。




