王子様、畑仕事は未経験
数日が経ち、リアンの傷もだいぶ塞がってきた。まだ本調子とは言えないが、寝たきりだった頃を思えば見違えるほどだ。
「そろそろ、畑を作ろうと思うんだけど」
ある朝、俺がそう切り出すと、リアンは怪訝そうな顔をした。
「畑?」
「そう。いつまでも森で採れるものだけに頼るわけにもいかないだろ。野菜くらい自分たちで育てないと」
自分たちで、という言葉が自然と口をついて出たことに、少し遅れて気づく。リアンも一瞬何か言いたげな顔をしたが、結局何も言わなかった。
「手伝ってくれるか?」
「……仕方ない。世話になっている以上、無為に過ごすつもりはない」
そう言うわりに、どこか及び腰な様子が気になった。だが理由を聞く前に、俺はふと思いついて言ってみた。
「そういえばさ、リアンって王子なんだろ? だったら農作業とか得意そうだよな」
以前、うわごとのように漏らしていた「王子」という単語を、俺はまだ覚えていた。リアンは一瞬顔を強張らせたが、やがて観念したように頷いた。
「……そうだ。私はエルフの王家の末子だ」
「へえ、王子様か」
言われてみれば、その整いすぎた顔立ちにも、時折覗く尊大な物言いにも納得がいく。だが実際に本人の口から聞くと、思っていた以上に実感が湧かないものだった。
「じゃあ余計に期待できるな」
「王子が大根を植えると思うか」
にべもない返事だった。
「思うだろ普通。エルフなんだから土いじりくらい――」
「私は、剣と弓の稽古はしてきたが、畑仕事など一度もしたことがない」
なるほど、これは前途多難そうだ。
結局、二人で畑を耕し始めることになったのだが――案の定、リアンの手つきはひどいものだった。種を蒔く位置は不揃いで、畝の高さもばらばら。鍬の持ち方すら危なっかしく、力任せに振り下ろしては、せっかく耕した土をまた元通りに崩してしまう。
「あー、そこ、種入れたばっかりだったのに」
「……すまない」
珍しく素直に謝る姿がおかしくて、俺は思わず噴き出してしまった。かと思えば、次は水を撒く量を間違え、畝の半分を水浸しにしてしまう。何をやらせても、危なっかしいことこの上ない。
「いや、悪い悪い。でも、王子様がこんなに畑仕事下手だとは思わなかったわ」
「うるさい。剣を持たせれば、お前より百倍は役に立つ」
むきになって言い返すリアンの顔が、いつもよりほんの少し赤い。それが照れなのか、単に不服そうにしているだけなのか、俺にはまだ判断がつかなかった。
けれど、こうして軽口を叩き合えるようになったこと自体が、数日前には考えられなかった変化だ。畑の隅で盛大に土を被ったリアンを眺めながら、俺は密かにそう思っていた。案外、この暮らしも悪くないのかもしれない。




