塩味だけのスープ
水を飲み終えたリアンの顔色は、少しだけましになっていた。それでも傷の具合はよくない。俺は改めて彼の体を見て、これは食事も必要だなと判断した。
「ちょっと待ってて。何か作るから」
「……何を」
「スープだよ。怪我人がいきなり肉とか食ったら胃がびっくりするだろ」
前世で聞きかじった程度の知識だが、間違ってはいないはずだ。俺は台所に立ち、余っていた野菜を刻んで、あえて薄味に仕上げることにした。塩だけの、シンプルなスープだ。
出来上がったそれを椀によそい、リアンのもとへ運ぶ。
「はい、これ」
差し出された椀を、リアンはしばらく無言で見つめていた。
「……毒か」
「は? そんなわけないだろ、毒なんか入れて何の得があるんだよ」
「人間の考えることなど、わかるものか」
失礼極まりない返事に、俺は思わずむっとした。が、ここで言い争っても仕方がない。
「いいから飲めって。冷めるぞ」
しばらく睨み合いが続いたあと、リアンは渋々といった様子で椀に口をつけた。
一口、また一口。その瞬間、彼の表情がほんの一瞬だけ動いた。驚いたような、それでいてどこか安堵したような。
「……うまい?」
聞いてみると、リアンは一瞬言葉に詰まったあと、そっけなく答えた。
「……食べられなくはない」
「それ、褒めてる? けなしてる?」
「好きに取れ」
つんとした態度は崩れないままだったが、気づけば椀の中身はいつの間にか空になっていた。
言葉よりも雄弁な、その空の器。俺は思わず口元が緩むのを感じながら、それを回収した。
「もう一杯いる?」
「……もう少しなら」
素っ気ない返事の裏に、少しだけ柔らかいものが滲んでいる気がした。まだ全然打ち解けてはいないけれど、少なくとも、殺気だけを向けられていた昨夜よりはずっとましだ。
俺は追加のスープをよそいながら、この奇妙な二人暮らしが、どうやらしばらく続きそうだということを、なんとなく悟り始めていた。




