故郷、ヴェルディア
数日後の夜、いつものように食事を終えたあと、リアンが珍しく自分から口を開いた。
「……話しておきたいことがある」
その声はいつもより硬く、俺は思わず居住まいを正した。
「私の故郷は、ヴェルディアという森だ。遠く離れた場所にある」
「うん」
「そこには、精霊樹と呼ばれる大樹があった。我らエルフにとって、守護神のような存在だ」
初めて聞く単語だった。俺は黙って続きを促す。
「精霊樹に灯りを灯せば、遠く離れた同胞にも、その光がどこにあるかわかる。エルフにしか感知できない光だ。……我らにとっては、何よりも大切な信仰の対象だった」
そこまで語って、リアンは一度言葉を切った。炎に照らされたその横顔には、隠しきれない苦しみが滲んでいる。
「人間の国は、近年になって急速に人口を増やしていた。そのぶん、土地を求めて森を切り開こうとしていた。最初はゆっくりとした開拓だったが……ある時から、軍隊を率いて一気に攻め込んできた」
「……それで?」
「森は焼かれた。同胞たちは散り散りに逃げるしかなかった」
淡々とした口調の裏に、押し殺した激情があるのがわかった。俺は何も言わず、ただ耳を傾け続ける。
「父上と、兄上たちは……精霊樹を見捨てることができなかった。あの木と共に生き、あの木と共に死ぬことこそが、王家の誇りだと信じていた」
リアンの拳が、膝の上できつく握りしめられる。
「私だけが、逃げることを許された。父上に、そう命じられたからだ」
「……」
「『すべての同胞を道連れにするわけにはいかない。お前は生き延びて、残された者たちを導け』――それが、父上の最後の言葉だった」
声が、微かに震えていた。それでも涙は流さない。ただ、悔しさと悲しみを押し殺すように、唇を強く噛んでいる。
「私は、父上と兄上たちを置いて逃げた。それが正しかったのか、今でもわからない」
俺は何と言葉をかければいいのかわからず、ただ静かにリアンの隣に座り続けた。安易な慰めの言葉は、かえって彼を傷つける気がした。
「……よく、話してくれたな」
しばらくして、俺はそれだけを口にした。リアンは小さく頷き、それ以上は何も語らなかった。
焚き火の炎だけが、二人の間の静寂を、ゆっくりと燃やし続けていた。




