母の、具だくさんのスープ
「兄弟の話、もう少し聞かせろ」
しばらくの沈黙のあと、リアンがぽつりと言った。意外な申し出に、俺は少し驚きながらも口を開く。
「別に面白い話でもないけど……そうだな、うちの母さん、よくスープ作ってくれたんだよ」
「スープ?」
「そう。五人兄弟分の量を作るのって、地味に大変でさ。肉とか高い具材はそんなに買えないから、母さんはいつも、野菜とか豆とか、とにかく具をたくさん入れて量でごまかしてた」
思い出しながら話すと、自然と笑みがこぼれる。
「見た目は正直、ごちゃごちゃしてて豪華とは言えなかった。でも、あれが一番うまかったんだよな」
「……そうか」
「母さんが作るスープって、いつも同じ味のはずなのに、なぜか毎回ちょっとずつ違ってさ。今日はちょっと薄いなとか、今日はやけに芋が多いなとか、みんなでそれを言い合うのも含めて、あの時間が好きだった」
言葉にしてみて、改めて気づく。自分が恋しがっているのは、味そのものよりも、あの騒がしい食卓の空気なのかもしれない。
リアンは何も言わず、ただ静かに耳を傾けていた。その横顔には、いつもの刺々しさはなく、どこか穏やかな色が浮かんでいる。
「……もう、遅い。休め」
しばらくして、リアンがそう言って立ち上がった。
「ああ、そうする」
俺も頷いて、それぞれの寝床へと向かう。眠気はすぐにやってきて、その夜は特に夢を見ることもなく眠りに落ちた。
◇◇◇
俺が寝入ったあと、しばらくリアンは眠れずにいた。
物音を立てないよう気をつけながら台所へ向かい、鍋を覗き込む。夕食で使った鍋には、まだ少しだけスープが残っていた。
迷うような間があった後、リアンはその残りを静かに椀へよそい、一口飲んだ。
具だくさんというほどではない、シンプルな野菜スープ。それでも、なぜかその温かさが、じんわりと染み渡っていく気がした。
――こいつにも、帰りたい場所があるんだな。
誰に言うでもなく、リアンは胸の内でそう呟いた。異世界から来た人間であるこの男が、それでも故郷を懐かしむ気持ちだけは、自分と何も変わらないのだと、今更のように理解する。
空になった椀を静かに片付け、リアンはそれ以上何も言わずに、自分の寝床へと戻っていった。




