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おっさん、殺し屋少女と家族になる  作者: Atelier Lotus文庫


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第98話 復讐

 玲との日々を思い出し。


 少しずつ収まりかけていた復讐の炎。


 しかし。


 剣吾の姿を見た瞬間。


 胸の奥へ押し込めていた憎しみが、一気に燃え上がった。


 二十八年間。


 忘れようとしても忘れられなかった。


 父を殺した男。


 母を殺した男。


 あの日。


 自分からすべてを奪った男。


「……殺す」


 その言葉は、自然と口から零れ落ちた。


 恒一はゆっくりと剣吾へ歩み寄る。


 剣吾は逃げない。


 抵抗もしない。


 ただ静かに恒一を見つめていた。


 恒一は剣吾へ馬乗りになる。


 震える手でナイフを振り上げた。


 あと一振り。


 それだけで終わる。


 脳裏へ蘇る。


 父が倒れた姿。


 母が自分を庇って倒れた姿。


 食べられなかったハンバーグ。


 来なかったサンタクロース。


 親戚の家で迎えた、一人きりの朝。


 二十八年間。


 忘れた日は、一日もない。


 ずっと、この瞬間だけを待ち続けてきた。


「お前が……」


 震える声が漏れる。


「お前が!」


「父さんを!」


「母さんを!」


 涙が溢れる。


 憎い。


 憎くてたまらない。


 その時だった。


「……こういち」


 玲の声が聞こえた。


 恒一はゆっくりと振り返る。


 玲は涙を流していた。


「ごめんな」


「やっぱり」


「こういちには」


「殺しはやってほしくない」


 恒一は言葉を失う。


 玲は涙を拭いながら、小さく笑った。


「前に」


「こういち」


「私へ言ってくれたよな」


「人を殺してほしくないって」


「ああ……」


「私は」


「何でだって聞いた」


「悪い奴も殺したら駄目なのかって」


「何で私に殺してほしくないんだって」


 玲は静かに恒一を見つめる。


「あの時は」


「全然分からなかった」


「理由になってないって思った」


「でも」


「今なら分かる」


 玲は自分の両手へ視線を落とした。


「人を殺したら」


「悲しむ人がいる」


「待ってる人がいる」


「帰りを待つ家族がいる」


「私は」


「そんな日常を」


「たくさん壊してきた」


 震える声で続ける。


「だから」


「こういちには」


「こっち側へ来てほしくない」


「人を殺したら」


「きっと」


「一生苦しむ」


「だから」


「嫌だ」


 理屈ではなかった。


 ただ。


 大切な人だから。


 その願いだけが、恒一の胸へ真っ直ぐ届く。


「くっ……!」


 恒一の腕が震える。


「なんでだよ……!」


「なんでなんだよ!」


 唇を強く噛み締める。


 血の味が口の中へ広がる。


 涙が止まらない。


 父と母を奪われた憎しみ。


 玲と過ごした温かな日々。


 二つの想いが胸の中で激しくぶつかり合う。


 やがて。


 恒一はゆっくりとナイフを下ろした。


 静かに立ち上がり、剣吾を真っ直ぐ見つめる。


「俺は」


「お前を許さない」


「一生」


「許せない」


 一度、大きく息を吐く。


「でも」


「殺さない」


 玲へ視線を向ける。


「俺は」


「玲に、お前と同じ思いをさせたくない」


 静かにナイフを地面へ置く。


 乾いた音が静寂に響いた。


「復讐は」


「ここで終わりだ」


 二十八年間。


 恒一を縛り続けてきた復讐は、その瞬間、静かに終わりを迎えた。

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