↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おっさん、殺し屋少女と家族になる  作者: Atelier Lotus文庫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
98/115

第97話 家族

 しかし。


 恒一がナイフを握る手は、動かなかった。


 脳裏へ浮かんだのは。


 父でも。


 母でもない。


 一人の少女との日々だった。


『飯作れ』


『服洗え』


『殺すぞ』


 最初は命令ばかりだった。


 何を考えているのか分からない。


 感情の見えない少女。


 それが、冬埜玲だった。


 けれど。


 少しずつ変わっていった。


 一緒にゲームをした。


 一緒に料理をした。


 一緒に買い物へ行った。


 ラーメンを食べて目を輝かせ。


 水族館では子どものようにはしゃぎ。


 美容院では鏡を見つめながら、


『悪くない』


『気に入った』


 そう言って、小さく笑った。


 腕相撲では力加減を間違え、


『悪い』


 初めて素直に謝った。


 曲がった指を隠し。


 嫌われることを怖がった。


 自分が刺された時には、


『こういちが死ぬかと思った』


 そう言って、子どものように泣いた。


 そして、いつからだろう。


『肩叩け』


『隣へ座れ』


『抱っこしろ』


『手を繋げ』


 命令だと思っていた言葉が。


 今なら分かる。


 あれは命令なんかじゃない。


 甘え方を知らなかった少女が。


 必死に甘えようとしていた、不器用な精一杯だった。


 呼び方も変わった。


『お前』


 そう呼んでいた少女は。


 いつの間にか。


『こういち』


 そう呼ぶようになっていた。


 恒一は静かに目を閉じる。


 父も。


 母も。


 もう帰ってこない。


 失った家族は、二度と戻らない。


 それは、どれだけ願っても変えられない。


 でも。


 気付けば、自分の部屋には笑い声があった。


 一緒にご飯を食べる相手がいた。


 帰る場所があった。


 他愛ないことで喧嘩をして。


 また笑い合える日常があった。


 そして。


「こういち」


 そう呼んでくれる少女がいた。


 玲は、失った家族の代わりではない。


 それでも。


 知らないうちに、自分へもう一度家族のぬくもりを教えてくれた。


 もう、自分は一人じゃない。


 その温もりを。


 復讐で壊したくはなかった。


 恒一の震えていた手から、少しずつ力が抜けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。