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おっさん、殺し屋少女と家族になる  作者: Atelier Lotus文庫


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第99話 終わった復讐

 静寂が訪れる。


 誰も口を開かなかった。


 剣吾は静かに恒一を見つめる。


 そして、小さく息を吐いた。


「……一つだけ、お聞きしてもよろしいでしょうか」


 恒一は黙って頷く。


「もし、あなたが私を殺さなければ」


 剣吾は静かな声で続けた。


「私は組織の命令に従い、再び冬埜玲を狙うかもしれません」


 玲は黙ったまま聞いていた。


「あなたは冬埜玲を匿っています」


「もしかしたら」


「次は、あなたを殺しに行くことになるかもしれない」


 剣吾は恒一を真っ直ぐ見つめる。


「それでも……」


「それでも、あなたは私を殺しませんか」


 恒一はしばらく俯いていた。


 静かな時間が流れる。


 やがて顔を上げる。


 涙で濡れた瞳は、それでも迷っていなかった。


「……それでも」


 一度、深く息を吸う。


「それでも」


 拳を強く握り締める。


「殺さない」


 その一言だった。


 張り詰めていた糸が切れる。


「うっ……」


 涙が溢れる。


 足から力が抜けた。


 恒一はその場へ膝をつく。


 二十八年間。


 胸の奥へ押し込め続けてきた憎しみ。


 その重荷が、ようやく降りた。


「こういち」


 玲が静かに歩み寄る。


 そして何も言わず、恒一を優しく抱きしめた。


「……辛かったな」


 その一言で。


 恒一は堪えていたものが決壊した。


 声を上げて泣いた。


 玲はその背中を、幼い子どもをあやすように優しくさする。


「止めて、ごめんな」


 恒一は首を横へ振る。


 玲は微笑んだ。


「帰ろう」


 恒一は涙を拭いながら、小さく頷く。


「……ああ」


 立ち上がろうとした恒一は、倒れた剣吾へ視線を向けた。


「だが、こいつは……」


 玲も剣吾を見る。


 そして静かに答えた。


「問題ない」


「こいつらの仲間が、じきに回収へ来る」


 夜風が静かに吹き抜ける。


 二人は寄り添うように歩き出した。


 復讐ではなく。


 明日を生きるために。

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