第95話 復讐
玲は静かに剣吾を見つめる。
そして、自分のナイフを抜いた。
柄を恒一へ向ける。
「こういち」
恒一が振り向く。
「お前には」
「この人を殺す権利がある」
玲の声は静かだった。
剣吾も何も言わない。
恒一はゆっくりとナイフを受け取る。
その瞬間。
手が震え始めた。
目の前にいる男。
二十八年前。
父と母を殺した男。
忘れた日は、一日もなかった。
「お前が……」
震える声が漏れる。
「お前が!」
「父さんを!」
「母さんを!」
剣吾は静かに目を閉じた。
「はい」
「私です」
「謝っても」
「償える罪ではありません」
「あなたのご両親は」
「もう帰ってこない」
剣吾はゆっくりと頭を下げる。
「手前勝手なことを申します」
「ですが」
「これであなたのお気が済むのであれば」
「どうか」
「私を殺してください」
恒一はナイフを握る手へ力を込める。
震えが止まらない。
涙が溢れる。
「俺は……」
「俺は……!」
言葉にならない。
二十八年間。
胸の奥へ押し込めてきた憎しみ。
返してほしかった。
父を。
母を。
クリスマスを。
家族を。
全部。
「殺す……」
涙が地面へ落ちる。
「殺してやる……!」
震えるナイフの切っ先が、ゆっくりと剣吾へ向けられた。
二十八年間。
抱え続けた憎しみ。
その終着点が。
今、目の前にあった。




