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おっさん、殺し屋少女と家族になる  作者: Atelier Lotus文庫


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第94話 贖罪

 折れた腕。


 折れた脚。


 地面へ倒れた剣吾は、それ以上抵抗しようとはしなかった。


 玲も追撃しない。


 二人の間に、静かな沈黙が流れる。


 やがて剣吾は、小さく息を吐いた。


「……負けました」


 その言葉に悔しさはない。


 ただ、事実を受け入れていた。


 剣吾はゆっくりと恒一へ視線を向ける。


「あの日から」


「ずっと」


「あなたへ謝りたかった」


 恒一は黙って見つめ返す。


 剣吾は静かに語り始めた。


「私は」


「誰かを守るため」


「罪を背負う覚悟で、この道を選びました」


「法では裁けない悪を断つ」


「そのためなら」


「自らが罪人になることも受け入れてきました」


 苦しそうに息を吐く。


「ですが」


「私が奪ったのは」


「守るべき命でした」


「何の罪もない」


「あなたのご両親です」


 剣吾はゆっくりと目を閉じた。


「住所を確認しなかったのは」


「私の責任です」


「情報を鵜呑みにし」


「疑うことなく刀を振るった」


「その結果」


「取り返しのつかない罪を犯しました」


 玲は何も言わない。


 ただ静かに見守っている。


 剣吾は恒一へ向かって、深く頭を下げた。


 折れた腕が震える。


 額が地面へ触れる。


「申し訳……ありませんでした」


 その謝罪は、形式ではなかった。


 言い訳も。


 責任転嫁もない。


 二十八年間、胸の奥へ抱え続けてきた後悔。


 そのすべてを込めた、初めての謝罪だった。


「私は」


「あなたの人生を壊しました」


「どれほど謝っても」


「償える罪ではありません」


「それでも」


「一度だけ」


「謝りたかった」


 住宅街は静まり返っている。


 恒一は、ただ黙って剣吾を見つめていた。

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