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第86話 距離
玲の変化は、それだけではなかった。
家の中での距離が、少しずつ近くなっていく。
休日。
二人でテレビを見る。
玲は何も言わず、恒一の隣へ座った。
肩が軽く触れる。
以前なら少し離れて座っていたのに、今はそれが当たり前になっていた。
恒一は苦笑する。
「玲」
「何だ?」
「近くないか?」
玲は不思議そうに首を傾げた。
「嫌か?」
「いや……別に」
「ならいい」
玲はそのままテレビへ視線を戻す。
◇
しばらくすると、玲が小さく欠伸をした。
「眠いか?」
「ああ」
そう答えると、玲は自然に恒一の肩へ身体を預ける。
恒一は少し驚いた。
「お、おい」
「重いか?」
「いや」
「重くはないけど」
「なら問題ない」
玲は安心したように目を閉じる。
テレビの音だけが静かに流れる。
しばらくして。
玲は小さく寝息を立て始めた。
恒一は起こさないよう、そっとテレビの音量を下げる。
「まったく」
思わず笑みがこぼれた。
殺し屋として生きてきた少女が。
誰かへ無防備に身体を預けて眠る。
少し前なら、考えられなかったことだ。
玲にとって。
恒一の隣は。
世界で一番、安心できる場所になっていた




