第84話 家族
翌朝。
カーテンの隙間から、柔らかな朝日が差し込む。
恒一が目を覚ますと、玲もゆっくりと身体を起こした。
「おはよう」
「ああ」
少しだけ気まずい沈黙が流れる。
恒一は照れくさそうに頭を掻く。
「玲」
「何だ?」
「昨日のことは……忘れてくれ」
玲は首を傾げた。
「なぜだ?」
「普通」
「大人の男は泣かないんだよ」
玲は真顔で答える。
「でも」
「泣いていたではないか」
「うるさい」
玲は少し笑う。
「変なやつだ」
◇
夕方。
二人は食卓を囲んでいた。
玲が味噌汁を一口飲む。
「うまい」
「そうか」
「でも」
「少し味が濃い」
恒一が苦笑する。
「昨日は薄いって言っただろ」
「だから濃くした」
「極端なんだよ」
「これくらいでいい」
「いや、ちょっと濃いって」
玲は箸を置いた。
「細かい」
「料理は勢いだ」
「勢いで味付けするな」
「こういち」
「しつこい」
「味見しろって言ったの玲だろ」
「黙って食え」
「理不尽すぎる」
二人はしばらく睨み合う。
そして。
どちらからともなく吹き出した。
「ふふっ」
「はははっ」
部屋に笑い声が響く。
少し言い合って。
少し笑って。
また一緒にご飯を食べる。
二人はまだ知らない。
もう互いを。
家族だと思い始めていることを。
そして。
こんな他愛ない喧嘩さえも。
二人にとっては、何より大切な日常になっていたことを。




