第82話 知らない
部屋は静かだった。
しばらく考え込んでいた玲が、不意に口を開く。
「馬鹿だな」
恒一は苦笑する。
「いきなりだな」
玲は真っ直ぐ恒一を見た。
「家族を知らないなら」
「これから知ればいい」
「私も知らない」
その言葉に、恒一は少し目を丸くする。
「確かにな」
「お互い初心者か」
「ああ」
二人は小さく笑った。
玲は少し考え込む。
「もし」
「こういちが結婚できなかったら」
「私が結婚してやる」
恒一は思わず吹き出した。
「それはやめとくわ」
玲は納得がいかないように首を傾げる。
「なぜだ?」
「あと二年で十六歳だ」
「冬埜では」
「女は十六歳になったら結婚するぞ」
「法律なのか?」
恒一は額に手を当てる。
「違う違う」
「そういう問題じゃない」
「じゃあ何だ?」
「お前」
「俺といくつ歳離れてると思ってる」
玲は少し考える。
「……二十四」
「正解」
「俺、三十八歳」
「お前、十四歳」
「年の差ありすぎだろ」
玲は腕を組み、真剣な顔になる。
「確かに」
「二十四は大きいな」
「だろ?」
「じゃあ」
「二十四年待てばいいのか?」
「待たなくていい」
「そうか」
「難しいな」
玲は本気で悩み始める。
恒一は思わず笑ってしまった。
「はははっ」
その笑いにつられて、玲も少しだけ笑う。
「笑うな」
「悪い悪い」
ついさっきまで過去の話で沈んでいた部屋には、久しぶりに穏やかな笑い声が響いていた。




