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おっさん、殺し屋少女と家族になる  作者: Atelier Lotus


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第7話 飯がうまい

 少女は恒一の胸へ倒れ込んだまま、ぴくりとも動かない。


「……気を失ったのか?」


 恐る恐る声を掛けても反応はない。


 首筋へ手を当てる。


 脈はある。


 呼吸もしている。


「助かった……のか?」


 いや、助かったと言っていいのだろうか。


 目の前には、人を殺した少女。


 しかも、自分も殺されかけた。


「警察を……」


 そう思い、スマートフォンへ手を伸ばす。


 しかし。


 ぐぅぅぅ……


 再び腹の虫が鳴った。


「…………」


 思わず少女の顔を見る。


 痩せている。


 服も汚れ、頬は少しこけていた。


 何日もまともな食事をしていないのは、一目で分かる。


「はぁ……」


 恒一は大きくため息を吐いた。


「恐ろしい女だが……」


「まだ、子どもじゃないか」


 十四歳。


 本来なら学校へ通い、友達と遊んでいる年頃だ。


 そんな少女を、このまま放っておくのは寝覚めが悪い。


「飯だけ食わせて……」


「それから警察を呼ぼう」


 そう決めると、恒一はゆっくり立ち上がった。


 まだ脇腹は痛む。


 それでも冷蔵庫を開ける。


「確か……」


 豚肉。


 玉ねぎ。


 卵。


 冷蔵庫に残っていた材料で、生姜焼きを作ることにした。


 包丁を握る。


 ジュウッ――。


 フライパンから香ばしい音が立ち上る。


 醤油と生姜の香りが、狭い部屋いっぱいへ広がっていく。


 しばらくして。


「…………」


 少女の鼻が、ぴくりと動いた。


 ゆっくり目を開ける。


 視線が部屋を見回し、すぐ恒一を捉える。


 反射的に腰へ手を伸ばす。


 ナイフ。


 ある。


 それを確認すると、少しだけ警戒を解いた。


「起きたか」


 少女は返事をしない。


 ただ食卓へ置かれた皿を見つめる。


 湯気が立っている。


「腹、減ってるだろ」


「食べろ」


 少女はしばらく動かなかった。


 毒かもしれない。


 そんな疑いが見える。


 やがて箸を手に取り、小さく一口食べた。


 その瞬間だった。


 目が少しだけ見開かれる。


「…………うまい」


 もう一口。


 さらにもう一口。


 箸が止まらない。


 あっという間に茶碗も皿も空になった。


 最後の一粒まで綺麗に食べ終える。


 少女は満足そうに息を吐いた。


「……飯がうまい」


 そして恒一を見て言う。


「本当は口封じで殺すつもりだった」


「でも」


「お前は飯がうまい」


「だから、生かしてやる」


「…………は?」


 恒一が呆気に取られていると、少女は当然のように続けた。


「今日から私を匿え」


「警察へ行ったら殺す」


 恒一は思わず頭を抱える。


「いやいやいや!」


「何でそうなるんだ!」


 少女は首を傾げる。


「飯が作れる」


「住む場所もある」


「問題ない」


「いや、大ありだろ!」


「私は困ってない」


「困ってるのは俺なんだよ!」


 少女はそんな恒一の言葉など気にも留めない。


 食後のお茶を勝手に飲み、一息つく。


「ふぅ」


 そして一言。


「今日から、よろしく」


 あまりにも勝手なその宣言に、恒一は天井を見上げた。


「……なんで、こうなったんだ」


 こうして、家族を失った男と、殺し屋少女の奇妙な共同生活が始まった。

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